過去の自分と向きあうということは――
慣用句としては、よく用いられる言い回しですが――
実際には、絶対にできないことです。
例えば――
僕は今年で39歳になるのですが――
39歳の僕が29歳の僕と向きあうことは、時間旅行が実現でもしない限り、絶対にできません。
29歳の僕が、何を感じ、何を考え、何を表し、いかに動いたか。
それを正確に把握することは不可能です。
不可能でないのは――
過去の自分と向きあおうと思っている今の自分と向きあうことだけです。
29歳の僕はどんなふうであったかを思い出そうとしている39歳の僕の心身の有り様を、的確に見定めることです。
なぜ今の自分は過去の自分と向きあおうと思っているのか――
そこが唯一無二のポイントになってきます。
おそらくは――
過去の自分に含まれる何かを、あるいは、過去の自分に関わる何かを見つけだしたいからでしょう。
が――
それら「何か」は、時の流れの彼方で、永遠に失われています。
それらを引き継いでいるに違いない今の自分に含まれる何かを、あるいは、今の自分に関わる何かを――
見つけだすしかないのです。
答えは過去にはなく――
今にあります。