マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

小説に寿命があるとしたら

 小説に寿命があるとしたら――
 それは、その作品の趣旨や雰囲気とその時代の趨勢や流行との距離感に比例するのではないでしょうか。

 今の時代の趨勢をよくとらえた作品ほど、寿命は短くて――
 今の時代の流行から十分に縁遠い作品ほど、寿命は長い――

「今の時代の趨勢をとらえる」とは、

 ――ああ、いかにも今時の小説だな~。10年前だったら、絶対に書かれなかった小説だな~。

 と思われやすい、ということです。

「今の時代の流行から縁遠い」とは、

 ――こんな小説だったら、千年前に書かれていても、まったく不思議はないんじゃないか?

 と思われうる、ということです。

 紫式部の『源氏物語』は、『竹取物語』を参考に書かれたらしい、といわれます。

源氏物語』は平安中期に書かれた小説で――
竹取物語』は平安前期に書かれたと考えられています。

 優に100年の時差があります。

 現代のように、種々の物語が様々な媒体で大量生産されるような時代ではなかったでしょうから――
 その時差は、きわめて自然であったに違いありません。

 もし、そうならば――
源氏物語』は、時代の趨勢や流行からは、相当の距離感があったといえましょう。

 だから、今日まで活き活きと命脈を保っている――
 そう考えるのです。

 ――小説を書くのなら、まずは古典に学べ。

 などといわれますが――
 少し違う言い方をすれば、

 ――寿命の長い小説を書くのなら、まずは今の時代を忘れろ。

 となりましょう。