人は、ある程度、歳をとってきたら――
自分の知っていることや、自分でわかっていることよりも――
自分の知らないことや、自分ではわかっていないことのほうが――
ずっと大事です。
人は、自分の知っていることや、自分でわかっていることなら、十分に把握し、掌握できていますから――
その内容を、労せずに参照し、活用することができるのですが――
自分の知らないことや、自分ではわかっていないことは、それを具体的に想像し、描写することが大変に困難ですから――
その内容を、労せずに推定し、補完することはできません。
その推定や補完には、相応の労力や時間――それに、胆力――を必要とするのです。
歳をとった人は、自分の知っていることや、自分でわかっていることが豊富です。
そのぶん――
自分の知らないことや、自分ではわかっていないことを推定し、補完するために必要な手がかりを――
何とか揃えることができるのです。
が――
歳をとっていない人には、それが難しい――
自分の知っていることや、自分でわかっていることが、限られているからです。
自分の知らないことや、自分ではわかっていないことを推定し、補完ために必要な手がかりを――
どうにも揃えることができないのです。
老練な賢者は、自分の知識の広さや理解の深さを誇示しません。
むしろ、自分の知識や理解の限界を臆することなく明示します。
その限界を曝け出してなお、思慮を示し、知恵を授けうるのが――
真に老練な賢者です。