歴史は、権力闘争の勝者たちによって語り継がれてきたものですから――
敗者たちの視点で語れば、まったく別の歴史になります。
そして――
もし、その敗者が実在しえない架空の人物などであれば――
その歴史は、もはやファンタジーといえましょう。
いえ――
厳密には、その逆でして――
歴史上に実在しえなかった敗者を設定することで紡がれるファンタジーというものは――
実際には流れえなかった歴史の可能性を示している――
といえるのです。
11月1日から日本で公開されるというファンタジー映画『リンカーン/秘密の書』(邦題)は――
アメリカ合衆国・第16代大統領のエイブラハム・リンカーンが、実は吸血鬼ハンターだったという設定です。
このファンタジーで語られる敗者は――つまり、前述の“歴史上に実在しえなかった敗者”は――吸血鬼たちです。
19世紀のアメリカに残っていた奴隷制度は――
実は、闇社会の吸血鬼たちに栄養を供給するための手段となっていた――
というのですね。
原作は『ヴァンパイアハンター・リンカーン』(邦題)という題名のアメリカの小説だそうで――
映画『リンカーン/秘密の書』の設定も、大半は、こちらから移植しているようです。
実に精緻な設定です。
“歴史上に実在しえなかった敗者”として、これ以上に秀逸な発想は――
今のところ、思い当りません。