語りたいことがある人は――
その「語りたいこと」をどの順番で語っていくのかを考えるのが、とても楽しく感じられるものです。
それは――
語りたいことを語ろうとすることで、それまでの考えが整理され、深化されるからでしょう。
何事かを語ろうとすることによって――
それまでは、よくわかっていなかったことに気付き、納得する――
それは、概して心地よい体験です。
が、その体験は、「語りたいこと」を聞かされるほうとしては――
決して心地よいものではありません。
聞き手は、通常、その「語りたいこと」が整理される前の状況を、あるいは深化される前の階層を――
何も知らないからです。
わかっていないことが多すぎて――
新たな気づきに胸を躍らせる余裕はなく、また、気づいたことを深く味わう意欲もありません。
そのような聞き手の立場を――
語り手は、つねに斟酌するほうがよいでしょう。
つまり――
語り手は、自分の心地よさを追求してはいけない、ということです。
具体的には、どうするべきか――
何か語りたいことがある人は、その「語りたいこと」をどの順番で語っていくかではなく――
その「語りたいこと」のうち、何を語り、何を語らないかを選り分けるのがよいでしょう。
そうやって選り分けていくと――
その「語りたいこと」の多くは省かれ、きわめて初歩的で単純な内容しか残らないものです。
が――
聞き手の立場を考えれば、それくらいがちょうどよいのです。
きわめて初歩的で単純な内容しか語る必要がないのなら――
語る順番に創意工夫を施す余地はありません。
どの順番で語っていくべきかは、しぜんとわかってきます。