本当に美しかった風景とか――
本当に楽しかった宴席とかは――
実は――
ついに見ることのなかった風景であり――
ついに着くことのなかった宴席であろうと思います。
想像の中で補って――
現実よりも美しく、かつ楽しく感じさせる――
それは、人の心の特筆すべき性質でしょう。
人の心は、幻をこそ至上と定め、その去りゆく影に追いすがっていくのです。
そうした人の心の動きを否定的にとらえるべきか否かは、議論の分かれるところです。
要は、正しい状況・条件判断というのが大切で――
政治の世界や産業の現場で、しかるべき地位の人が、去りゆく影を追いすがり始めたら、その他の多くの人々が酷い目に遭いますが――
そうでないときは――
例えば、とても私秘的な思索や個人的な芸術の場であれば――
人は、幻を追いかけたほうが、現実を直視するよりも、より深い満足感が得られるかもしれません。