マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

幻をこそ至上と定め

 本当に美しかった風景とか――
 本当に楽しかった宴席とかは――

 実は――
 ついに見ることのなかった風景であり――
 ついに着くことのなかった宴席であろうと思います。

 想像の中で補って――
 現実よりも美しく、かつ楽しく感じさせる――
 それは、人の心の特筆すべき性質でしょう。

 人の心は、幻をこそ至上と定め、その去りゆく影に追いすがっていくのです。

 そうした人の心の動きを否定的にとらえるべきか否かは、議論の分かれるところです。

 要は、正しい状況・条件判断というのが大切で――
 政治の世界や産業の現場で、しかるべき地位の人が、去りゆく影を追いすがり始めたら、その他の多くの人々が酷い目に遭いますが――
 そうでないときは――

 例えば、とても私秘的な思索や個人的な芸術の場であれば――
 人は、幻を追いかけたほうが、現実を直視するよりも、より深い満足感が得られるかもしれません。