――私も後期高齢者なんですよ。
とか、
――人のことは言えないけどなあ。
とか――
いずれもコラムニスト天野祐吉さんのお言葉です。
一昨日に亡くなられたことを報道で知りました。
80歳でいらしたそうです。
そんなお歳になられていたのですね。
*
一つ目の「私も後期高齢者なんですよ」は――
正確には「天野さんのお言葉」と僕が記憶しているものです。
たしか報道番組に出演されていたときに、TVカメラの前でおっしゃっていました。
後期高齢者医療制度が開始された頃のこと――
その「後期高齢者」という呼称に批判が集中したため、時の総理大臣の福田康夫さんが「長寿医療制度」の通称を使うように関係各省庁に指示を出されたと報じられていました。
「私も後期高齢者なんですよ」という天野さんのお言葉は――
報道関係者が「後期高齢者」を徹底的に客体化しようとしている様子に、やんわりと苦言を呈されたものと――
今の僕は受け止めておりますが――
当時の僕は、ただの冗談と受け止めました。
そのときのスタジオの様子も、TV画面から窺い知るかぎり、笑いの渦に包まれていました。
肺腑を抉るかのような痛烈な批評を冗談のレベルにまで和らげられる――
それが天野さんの真骨頂でした。
二つ目の「人のことは言えないけどなあ」は――
今年の5月にご自身のブログに書かれたものです。
作家で精神科医の故なだいなださんが、
――これからの日本は「強い国」ではなく「賢い国」を目指すべきだ。
と主張されていたことを引きあいにだされ、
――でもなあ、いまの政界を動かしている人たちの顔ぶれをみていると、あまり賢そうな顔が見当たらないんだよなあ。
と嘆かれたあとで、
――人のことは言えないけどなあ。
とトボけられたのですね。
この“おトボけ”がなければ、ただの中傷なのですが――
これがあるために――
いかにも日本人が親しめそうなタイプのユーモアになっています。
もちろん、ご本人は、
(いや、決して“おトボけ”じゃない。本当にそう思ってますよ!)
と、おっしゃるに違いないのですが……(笑
*
僕は天野さんとお会いしたことはありません。
にもかかわらず――
何回かお会いをし、親しくお話をさせていただいたような錯覚を持っています。
たぶん僕だけではないでしょう。
それは――
おそらくはコラムニストやTVコメンテイターとしての技術だけではなくて――
教養人としての超一流の社交術でした。