人は、生老病死を忘れていれば、きわめて気楽に暮らせますが――
それは、決して安楽ではありません。
残酷な現実から逃げ出し――
穏和な虚構に浸っているがゆえの気楽だからです。
真の安楽は――
生老病死の残酷を礎とします。
その残酷を踏まえ、つかの間の平穏を楽しむとき――
人は安楽を得ます。
もちろん――
その安楽は永続はしません。
いつか途絶える日が来る――
その日は、あすかもしれないし、5年後かもしれない――
50年後かもしれないし、きょうかもしれない――
その「かもしれない」を忘れることなく平穏を楽しでいるかどうかが――
気楽と安楽との違いです。
気楽は、突然、奈落の底へと突き落とされて終わります。
安楽は、ゆっくりと静かに、夕闇が迫るように終わります。