――成功
と、
――失敗
とだったら――
たぶん多くの人が、「失敗」よりも「成功」のほうに強く関心を持って、「成功」よりも「失敗」のほうに強く嫌悪を抱いていることでしょう。
(それが人情だ)
とは――
たぶん誰しもが感じるところでありまして――
かくいう僕だって――
そのように感じてはいるのですが――
それにもかかわらず――
僕は、どういうわけか、「失敗」よりも「成功」のほうに、漠然とした気味悪さを感じております。
その感覚は、どうも30歳を過ぎた頃から、徐々に強く意識されていったようで――
(な~んか、成功した後にイヤ~な思いをしてるんだよな~)
という感覚なのです。
……
……
少なくとも子供の頃の僕は――
「成功」の後の「イヤな思い」よりも、「失敗」の後の「イヤな思い」のほうを、ずっと気味悪く感じていました。
(失敗なんてヤだよ~! カッコわるいよ~!)
との思いです。
それが、いつの間にか逆転していた――たぶん30歳を過ぎた頃に、なのですが――
(これって、どういうことなんだろう?)
そう考え始めた矢先に――
作家の竹内薫さんから、ありがたいお誘いを受けまして――
去年の冬のことでした。
――いま「失敗」をテーマにビジネス書の出版を進めているのですが、精神科医の見地から、ちょっと手伝ってもらえませんか。
僕は、7年ほど前から、専ら精神科医として働いているので――
そのようなお誘いになったと理解しております。
以降――
竹内さんを筆頭に、出版プロデューサーの神原博之さんや総合法令出版の関俊介さんと議論を重ねて出来上がったのが――
書籍『失敗が教えてくれること』です。
今年の5月から店頭に並んでいます。
僕は基本的には監修であり、あくまでも竹内さんが著者でいらっしゃるのですが――
僕の意見も少なからず取り入れて頂きました。
よって、僕が「失敗」ではなく「成功」のほうに漠然とした気味悪さを感じている理由も――
それなりには伝わってくる作りになっていると思います。
……
……
なぜ「失敗」よりも「成功」のほうが気味悪いのか――
それは――
ごく簡単にいってしまえば――
「成功」は、ほとんど何も教えてくれないからです。
何も教えてくれないのに、気分ばかり良くさせる――
これって――
詐欺や籠絡の気味悪さに通底しているに違いありません。
今の僕は、そう信じております。