教科書には子供向けと大人向けとがある、といったら――
びっくりする方もいらっしゃるでしょうか。
もちろん――
いわゆる学校の教科書――小学校や中学校、高等学校で使う教科書――は、子供向けです。
そうではなくて――
例えば、専門性のある技術職の人が、ある学術領域について網羅的に理解したい思うときに手を伸ばすような書籍があります。
それは、大人向けの教科書です。
僕は、ふだん医師として働いているものですから――
そうした書籍に目を通すことが少なくありません。
そうした“大人向けの教科書”が、世の中には、案外たくさん出版されています。
そうした書籍に目を通していて、いつも思うことは、
(大人向けなんだから、もう少し、ちゃんと書いてほしいな~)
ということです。
“ちゃんと書く”とは、
――わかっていることだけではなくて、わかっていないことも、ちゃんと書く。
ということです。
子供向けの教科書では、“ちゃんと書く”は無茶な話です。
きっと子供は勉強の意欲をなくすでしょう。
が――
大人向けの教科書では、“ちゃんと書く”が有効なのです。
大人には、現実の世の中に転がっている未解決問題に敢えて取りくまねばならないことが、多々あります。
そういうときには――
どういうことがわかっていて、どういうことがわかっていないかを正確に把握していないと――
その問題の全容はもちろん一部分さえも理解することが困難なのです。
当然――
そんな困難に敢えて立ち向かおうという気持ちには、なかなかなれませんよね。
――使えねえな~、この教科書は……!
と――
つい舌打ちの一つもしたくなる――
現実の世の中に転がっている未解決問題に敢えて取りくもうという気持ちにさせてくれる教科書――
それが、“大人向けの教科書”です。