マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

これほど後ろ向きの言葉もなかったはず

 仮に、どうしようもなく辛気くさい人の、どうしようもなく後ろ向きの愚痴であったとしても――
 ニコニコ顔で、朗らかに語られれば――
 聞く人の印象は、まったく変わります。

 何かを語るときは――
 何を語るかではなくて――
 どうやって語るかが大切なのですね。

 どんな表情で、どんな声色で語るかが、大切なのであって――
 どんなことを、どんな筋道で語るかは、さして大切ではない――

 いやいや――
 本当は、どちらも大切なのでしょうが――

 要するに――
 どんなに素晴らしいことを、どんなに凝った展開で語ったとしても――
 厳つい顔で、苦々しく語ったのでは、意味がない――

 そういうことです。

 15年くらい前のこと――

 ある会社の仙台支社で、支社長をされていた30代の男性が――
 あるとき、急に関東地方の本社に呼び出され――
 日帰りで行って帰ってきて、口にされたことは、
「仙台支社を、今年度いっぱいで閉じるってよ」
 でした。

「そんなこと、電話で十分だよ」
 と、その支社長の男性は大いにご立腹でしたが――

 今にして思うと――
 その男性は、「今年度いっぱいで仙台支社を閉じる」という本社の方針にご立腹だったのではなく――
 その方針の語られ方にご立腹だったように思います。

 おそらく――
 本社の社長さんか重役さんが、厳つい顔で、苦々しく語ったのでしょうね。

 それから3か月くらいして――
 いよいよ仙台支社が閉じられるとなった頃に――
 その支社長の男性は、
「仙台の業績は、去年あたりから、だいぶ伸びてたのにな~」
 と、こぼされました。

 これほど後ろ向きの言葉もなかったはずですが――
 顔はニコニコで、声は朗らかでしたから――
 周囲に与えた印象は、まったく違っています。

 何を語るかではなくて――
 どうやって語るかが大切なのだということを――
 よく知っていた人です。