何かに名前をつけることは、
――呪(じゅ)
である――
という考え方があります。
この場合の「呪」は、「呪い」のことだけではなく、何か良いことを願う場合も含みます。
誰かの災難を願うことは「呪」ですが――
誰かの幸福を願うことも、また「呪」です。
人の禍福の願いを言葉にしたものが「呪」であるといえましょう。
そして、おそらくは――
最も簡明に呪を唱えることが、名づけです。
つまり――
最も短い呪は名前である――
……
……
などということを考えていると――
名前をつけることが、容易にはできなくなります。
わが子の名前を考えるといった大事はもちろんのこと――
身近な日用品の呼び名を考えるといった些事であっても――
ずいぶんと慎重になってしまう――
名前をつけることで、禍福を問わず、自分の願いが言葉になって現れてしまうことの怖ろしさ――
とでもいいましょうか。
呪には、どうしても禍々しい印象がついてまわりますが――
それは――
呪が、ふだんは心の内に秘めている願いを、あえて言葉に出して形にするからでしょう――その「願い」は、必ずしも好意的とは限りませんので――