小説家が、親子関係や夫婦関係を小説に描こうと思ったら――
その小説家自身の親子関係や夫婦関係が少なからず邪魔をするように思います。
自分自身の親子関係や夫婦関係の現実が――
小説で描こうとする親子関係や夫婦関係の創造性を薄めてしまうのではないか、と――
もう少し厳密な言い方をすれば――
自分自身の親子関係や夫婦関係の実態に引きずられた描写を――
無意識のうちにしてしまうのではないか――
ということです。
かといって――
小説を書くために、親子の縁を切ったり、夫婦であることをやめるわけにはいきませんので――
小説家は――
結局のところ――
自分自身の親子関係や夫婦関係のしがらみと格闘しながら――
小説の中に新奇の親子関係や夫婦関係を創造していくことになります。
それは――
自分自身の親子関係や夫婦関係を冷静に分析し、抽象化し、相対化していくことが前提になっています。
優れた画家は――
自画像に自分の外見上の欠点を巧みに描きこむそうですが――
それと似たようなことを――
優れた小説家は、こともなげにやってみせる――
といえましょう。