マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

恋に熟達した男

 たいていの男は――
 恋を知り、恋を習い、恋に通じ――
 やがて、恋によって女性と繋がることを覚えます。

 が――
 恋は脆い――決して長続きはしないものです。

 恋の脆さを知って――
 男は、恋に厭き、恋を忘れ、恋を嫌うようになります。

 そして――
 恋によってではなく、愛によって、女性と繋がることを覚えるのですね。
 
 ところが――

 なかには――
 いつまでたっても、恋に厭かず、恋を重ね――
 恋に熟達する男がいます。

 そういう男は――
 愛によって女性と繋がることを、いつまでも覚えようとしません。

 恋に熟達した男は――
 恋の脆さをよく知っているのに――
 恋によってしか女性と繋がろうとしないのです。

 そして――
 女性が恋に応えて、その男に愛を注ぎ始めると――
 男は、

 ――しまった。

 と思います。

 ――自分の恋が女を惹き寄せてしまった。

 と――

 そして――
 その女性のことを、不憫に思い始めるのです。

 ――なんと、いたましいことだ。

 と――

 恋に熟達した男は――
 自分の恋が決して長続きしないことを、よくわかっているのですね。

 それゆえに――
 男は、自分の恋を秘匿し、女性を拒み始めます――その女性が、恋の脆さによって傷つけられることのないように――

 ――ときには冷たく突き放す愛もある。

 という主張です。

 恋に熟達した男は――
 恋によって繋がっていた女性を、わざわざ愛によって切り捨てるのですね。

 こういう男は――
 現実の世界では、ただのトラブル・メーカーであったりするのですが――
 虚構の世界では、“男の美学”を具現した孤独なヒーローであったりします。

 そういう男に惹かれる女性が、はたして実在するのかどうかを、僕は知りませんが――
 そういう男に深く感じ入る男が、けっこう多くいるということを、僕は知っています。