女性にとって――
愛を知らない男と恋を知らない男と――
いったい、どちらが恐ろしいのか――
僕は――
恋を知らない男のほうが、ずっと恐ろしいと思っています。
愛を知らない男は――
例えば、人柄が冷たかったり、何となく余所余所(よそよそ)しかったり、どことなく信頼できなさそうだったりするので――
女性にしてみたら、
――あ、この男(ひと)は、危険……!
と、すぐにわかります。
が――
恋を知らない男は――
恋を知らなくても、愛を知っていれば――
人柄が温かかったり、何となく親しみが感じられたり、どことなく信頼できそうだったりするものですから――
女性は、
――この男(ひと)なら、大丈夫――
と、つい安堵してしまうのです。
その安堵に根拠がないわけではありません。
実際――
恋を知らなくても、愛を知っている男は、人柄が温かく、親しみが感じられ、十分に信頼できるものです。
そういう男に触れて、つい女性が安堵してしまうのは致し方のないことといえます。
ただ――
そういう男が恐ろしいのは――
ひとたび恋を知ってしまったあとなのです。
恋は狂気を含みます。
とりわけ男の恋は、しばしば凶暴でさえあります。
ときに、それまでの全ての愛をなげうって、自分の恋に邁進したりします。
その結果、周囲の人たちを深く傷つけてしまう――
愛を知らなくても、恋を知っている男は――
男の恋の狂おしさや猛々しさを冷静に把握しています。
自分の恋によって周囲の人たちを深く傷つけるようなことは、決してしないものです――自分自身も深く傷つくことになるから――
よって――
女性にとっては――
その男が愛を知っているかどうかは、さほど大きな問題ではないのです。
恋を知っているかどうか――それこそが、大きな問題なのです。