大学で教鞭を執っていた父が、
――最近の若い連中は、後ろ姿を見ただけでは、男か女かわからない。
といっていたのは――
今から30年くらい前――僕が小学生か中学生の頃です。
その父は、おととし13回忌が終わり――
僕は、当時の父と似たような年齢になっています。
そして――
今の僕も、当時の父と同じ思い抱いております。
すなわち、
(最近の若い連中は、後ろ姿を見ただけでは、男か女かわからない)
と――
――そんなの、今じゃ当たり前だろう。
と笑われそうですが――
それでも――
手がかりはあるものでして――
仮に、後ろ姿しか見えなくても――
体のある部位が見えていたら――
わりと高率に男女をいい当てることができるのですね。
その部位とは――
……
……
手や指です。
昨今は、ところかまわずスマートフォンをいじっている人が少なくありませんから――
後ろ姿しか見えていなくても――
手や指は肩越しに見えることが多いのです。
手や指が見えれば、顔が見えなくても、性別は、だいたいはわかります。
男性の手は、なんとなくゴツゴツとしていて――
指も節くれ立っています。
女性の手は、なんとなくナヨナヨとしていて――
指も滑らかに伸びています。
……
……
きょう――
ほぼ満員の電車に乗って立っているときに――
目の前で、僕に後ろ姿を見せている人がいました。
ふんわりとした黒髪を端正に束ねた人で――
頭から首筋までは完全に女性でしたが――
背中から下は、薄汚れたジャージ姿――
お洒落に無頓着な学生が着ていそうな紺色のヨレヨレのジャージ上下でした。
さて――
男か女か――
(うぉ~! どっちだ? わからんぞ~!)
と――
心の中で、かなり頭を抱えたのですが――
幸いスマートフォンをいじっていたので――
すぐに性別はわかりました。
その手は――
なんとなくナヨナヨとしていて――
指は滑らかに伸びていました。
その後、降りがけに顔が見え――
たしかに、20歳くらいの女性であることを確認しています。
確認したあとで――
すぐに新たな疑問は浮かびましたが――
(なんで、あんなジャージを着てたんだろう?)
と――