恋というのは――
自分の意思によらず、無意識に始まってしまうことですが――
だからこそ――
恋を、
――素晴らしい。
と讃える向きがあるのでしょう。
もし、恋が――
自分の意思によって、意識的に始められることだとしたら――
ちょっと恐いような気がします。
例えば、
「僕、今から、きみに恋をするよ」
「え?」
みたいな……。
あるいは、
「私、あした、あなたに恋するつもりだから……」
「いいね~。その時は、僕も、きみに恋し返すよ」
みたいな……。
あるいは、
「そんなに俺と別れたいなら、今すぐ俺に恋をしろ」
「そんな無体な……」
「ちゃんと俺に恋をしたら、きっぱり別れてやるよ」
「あなた、本当に最低ね」
みたいな……。
……
……
もし、ファンタジーの物語として――
自分の恋心を自在に操れる人間社会というものを――
描くのだとしたら――
その物語は――
かなり軽妙なコメディか、ちょっと陰惨なサスペンスになるような気がします。