小説は――
物語を伝えるために書くものだと思っている人が多いかと思いますが――
なかには――
うんちくを語るためだけに書くものと考えている人もいたりするから――
気をつけなければならないのですね。
そういう小説は――
当然ながら――
物語の筋を丁寧に追って読んでも――
大して面白くありません。
せいぜい、
――盛り上がりに欠けるな。
とか、
――凡庸な登場人物ばかりだ。
といった批評的感想をもらして溜飲を下げるくらいのものでしょう。
うんちくを語るために書かれた小説では――
物語の筋など、どうでもよいです。
何より、作者のうんちくをこそ丹念に読み込んでいくことが求められています。
例えば、おいしい料理屋の見分け方とか、カクテルの通名の由来とか、異性の品定めの要諦などなど――
――そんなの、ノンフィクションの随筆で書けばいいことじゃないか!
と息巻く向きもありましょうが――
そうとも、いいきれないのが小説の良さなのですね。
作者は――
ノンフィクションの随筆では書きにくいことを選んで――
あえてフィクションの小説に書き込んでいるのです。