いわゆるベスト・セラーは、出版後10年も経てば、読まれない本となり――
いわゆる古典的名作は、100年が経って、しだいに広く読まれる本となる――
という話を――
10代の頃に聞いたことがあります。
これは――
いわゆるベスト・セラーが、後世、古典的名作として読み継がれることはなく――
また――
いわゆる古典的名作は、世に出た当初は、ベスト・セラーには程遠かった――
ということを意味します。
もちろん――
例外はあるのでしょうが――
大雑把な傾向としては、そうだということです。
このようなベスト・セラーと古典的名作との違いは――
何に由来するのでしょうか。
おそらく――
ベスト・セラーは、皆が知らない内容を、皆が気づかない視点で語っているのに対し――
古典的名作は、皆が知っている内容を、皆が気づく視点で語っているからです。
*
きょう――
10年ほど前のベスト・セラーの本のタイトルを偶然、目にしました。
その本は、当時ものすごく話題となり――
僕も購入し――
何回か繰り返して読んだものです。
が――
どうしたことか、その内容をほとんど思い出せません。
そこで――
急に思い出されたのが――
行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。
よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとどまることなし。
世の中にある人とすみかと、またかくの如し。
『方丈記』は鎌倉前期に著されたとされる随筆であり――
いわずと知れた古典的名作の一つです。
(この随筆が、もし、今の平成の世の中で初めて出版されていたとしたら、はたして売れていたかどうか……)
ふと――
そんなことを思いました。