恋愛や結婚のことを多少なりとも公(おおやけ)に語れば――
リスクが生じます。
自分や自分の周りの人たちのプライバシーが“ダダ漏れ”になるリスクです。
人は――
何かを面白く語ろうとする時――
一人称の語り口に頼りがちです。
どうしても、「私」とか「私たち」を主語に語りたくなる――
が、それだと――
自分や自分たちのプライバシーの漏洩は確率の問題ないし時間の問題といえましょう。
そのような漏洩を避けるには――
もちろん、一人称でなく、三人称で語り続ければ良いのですが――
これが簡単ではない――
何かを三人称の視点で面白く語るには、卓越した技量や豊潤の知識、深遠な理解を要します。
それらを全て兼ね備えた語り手は、滅多にいません。
よって――
恋愛や結婚のことを公に語ると、自分や自分たちのプライバシーが“ダダ漏れ”になるか――
さもなければ――
きわめて退屈な一般論に終始してしまうことを覚悟する必要が出てくるのですね。
恋愛や結婚のことを多少なりとも公に語るのは――
本当に難しいことなのです。
……
……
ひと昔前――
作家としても著名でいらした学者さんが――
酒の席で、いわゆる“恋バナ”を面白くされていたので――
思い切って、
「そういうことも、ご著書の中で積極的に論じてみられては、いかがでしょう?」
と申し上げたところ――
――論じない。
と即答されたことがあります。
きわめて合理的なご判断でした。