マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

生物が散逸構造の一つなら

 ――原始生物は、エネルギーの流れが吹きぬいているところで誕生したのではないか。

 との推論を――
 きのうの『道草日記』で述べました。

 ――エネルギーの流れの勢いが、原始生物の誕生にとって激しすぎず、かつ穏やかすぎないところで、原始生物は誕生したのではないか。

 という憶測です。

 このような憶測には、

 ――エネルギーが流れるだけで、本当に原始生物が誕生したのか。

 と訝る向きもあるでしょう。

 たしかに不思議な話ではあります。

 が――
 荒唐無稽な話ではありません。

 どういうことか――

 ……

 ……

 冷えた味噌汁を鍋に入れて、しばらく温めると――
 味噌汁の表面(液面)に独特の模様が浮かびます。

 この模様は、味噌汁の対流の発生を反映したものです。

 鍋の形状にもよりますが――
 概して、鍋底に対して垂直の方向に――
 細長い対流の渦が幾つも生じます。

 この時、味噌汁は、鍋底から熱という形でエネルギーを受けとり、表面を介し、主に熱という形でエネルギーを放っています。
 つまり、味噌汁はエネルギーの流れに吹きぬかれているのです。

 細長い対流の渦は、幾つも集まって生じ、特定の構造を保ちます。
 味噌汁の表面に浮かぶ独特の模様は、この構造の形態です。

 つまり、

 ――エネルギーの流れの吹きぬくところに誕生した構造

 といえるのですね。

 この構造は、

 ――散逸構造

 と呼ばれます。

 20世紀ベルギーの理論化学者・物理学者イリヤ・プリゴジンが提唱した概念です。

 この概念の提唱で――
 プリゴジンは1977年にノーベル化学賞を受賞しました。

 きのうまでの『道草日記』で触れた渦潮や台風は――
 散逸構造の典型例です。

 風車も、その回転状態を含めて一つの構造とみなすのなら――
 散逸構造と呼べなくもありません。

 ……

 ……

 ところで――

 散逸構造の「散逸」とは――
 何を意味しているのでしょうか。

 実は、

 ――エネルギーの散逸

 なのです。

 自然界のエネルギーは、ただ流れるということは決してなく――
 必ず、散り乱れながら流れるのですね――さながらホースの口から勢いよく噴き出る水のように――

 そのように、エネルギーが散り乱れながら流れるところに――
 散逸構造は生じます。

 どのような散逸構造が生じるかは――
 そのエネルギーの流れが存在するところの環境や事象に依ります。

 どこでどんな散逸構造が生じるかを統一的に予測することは困難だといわれます。

 おそらく――
 自然界がエネルギーを効率よく散逸させるのに都合のよい構造なのでしょう。

 現代科学では、

 ――散逸構造とは、エネルギーの流れに対して自然界が示す応答である。

 と解釈します。

 どこでどんな散逸構造が生じるかは、

 ――あたかも自然界が恣意的に決めているようである。

 ということですね。

 よって――
 もし、生物も散逸構造の一つとみなすのなら、

 ――原始生物の誕生は自然界の応答であった。

 ということになります。

 太陽から太陽系の最果てに向かって散り乱れながら流れていくエネルギーへの応答として――
 自然界は、原始生物を誕生させた、と考えられます。