あらゆる挑戦をためらって――
何事にも引っ込み思案になってしまう――
という人々がいます。
そんな人々に共通してみられるのは、
――挑戦が失敗に終わった場合の心理的損害を重くみる。
という傾向です。
……
……
失敗による損害には、
――心理的損害
と、
――非心理的損害
とがあります。
「心理的損害」とは――
簡単にいえば――
嫌な気持ちになったり、ネガティブな気持ちになったり、あるいは、落ち込んだ気持ちになったりして――
人知れず苦しむことです。
一方――
「非心理的損害」とは、心理的損害でない損害の全てです。
非心理的損害には、物理的な損害、金銭的な損害、身体的な損害などの様々な種類がありますが――
いずれも心理的損害からは独立していて――
少なくとも一義的には――
人の心理に何ら影響を与えない――
という点に留意が必要です。
ところで――
……
……
引っ込み思案の人々を執拗に非難し続ける人――
を、たまに見聞きします。
そういう人の多くは――
心理的損害と非心理的損害との区別をつけていません。
よって――
次のような非難の矛先をつい向けてしまいがちです。
――仮に挑戦が失敗に終わっても、物理的・金銭的・身体的には何ら損害を被らないのだから、挑戦をするほうが得に決まっている。なぜ挑戦しないのか。
と――
たしかに――
心理的損害の危険性を全く勘定に入れなければ――
その通りなのですが――
引っ込み思案の人々にとっては――
それを勘定に入れないわけにはいかないのですね。
引っ込み思案の人々にとっては――
甚大な心理的損害をひとたび被ると、単純な日常生活さえ送れなくなることが自明だからです。
引っ込み思案の人々を執拗に非難し続ける人には――
そこが、わかりにくいようですね。
無理もありません。
心理的損害というのは――
非心理的損害と違って――
周囲に気づかれにくく、理解されにくいのです。
他の人の心の中は決して覗けませんので――
心理的損害は、あくまで“人知れず”被ります。
この性質は――
心理的損害と非心理的損害との区別を困難にしています。
見えない事を見える事から区別するのは――
原理的に困難です。