齢九十の作家さんが――
ご自分より若い世代に向かって、
――我々の青春時代は第二次世界大戦の頃で……。
と、つい言葉に出していってしまいそうになるのをぐっと堪えている――
という話を知って――
少々暗澹とした気分になりました。
……
……
いえ――
その老作家のお心がけは――
大変に立派だと思うのです。
――戦争体験は、それを体験したことがない者に、いくら口で説明しても、決して理解されない。
との諦念は――
ある種の達観であり、配慮であり――
それに異を唱えるつもりは毛頭ありません。
が――
……
……
この諦念を前提とする限り――
僕らは――
いつか、こう提案せざるをえなくなるのです。
――戦争の悲惨さを知るために、今こそ戦争を始めよう。
と――
……
……
たとえ運よく――
僕らが、そういうことをいわないで済んだとしても――
僕らの子の世代は、どうでしょうか。
あるいは――
僕らの孫の世代や、ひ孫の世代は――
……
……
実際に戦争体験をお持ちのご老人方に、
――それを体験したことがない者に、いくら口で説明しても……。
といわれてしまうと――
後世の誰かは――
いつか、
――今こそ戦争を……。
と提案せざるをえなくなる――
そう思います。
……
……
たとえ、十分には理解されなくても――
あるいは、十分に理解されうるとはとうてい思えなくても――
ぜひ語って頂きたい――ご自分の戦争体験を――
そう思います。