――同調圧力
という概念がありますね。
――少数意見の持ち主が多数意見に合わせるように仕向ける力
くらいの意味です。
この同調圧力――
人々の意見から多様性を奪うという点で――
大変に困ったものなのですが――
それだけではなく――
この力を押し返そうとするあまり、うっかり自分も同調圧力をかけてしまう――
ということが、よくあります。
具体的には――
*
――皆と違うことをするのに理由は要らない。
という考え方があります。
例えば――
皆が髪を短くしている中で、自分だけが髪を長くする場合に――
その選択に理由は要らない――
――ただ長くしたいから、長くする。それだけだ。
という考え方です。
それはそれで――
結構な考え方なのですが――
この考え方を拡張させて、
――皆と違うことをしている者に、その理由を訊いてはならない。
と考えるのは――
ちょっと行きすぎです。
例えば――
皆が髪を短くしている中で、自分だけが髪を長くしている場合に、
――あなたは、なぜ髪を長くしているのか。
と訊かれて、
――そのようなことを訊くものではない。
と答えて対話を拒むというのは――
行きすぎです。
おそらく――
そのように答える人は、
――そのように訊くこと自体が同調圧力だ。けしからん!
と指摘しているつもりなのでしょう。
が――
その指摘は、この段階では、まだ早いのです。
そうではなくて――
――あなたは、なぜ髪を長くしているのか。
と訊かれて、
――ただ長くしたいから、長くしている。それだけだ。
と答えたところ、
――積極的な理由がないのなら、皆と同じように、短くしたらよいではないか。
と勧められた――
この段階までくれば、早くはありません――「同調圧力だ。けしからん!」で、よいのです。
同調圧力を嫌うあまり、うっかり「そのようなことを訊くものではない」と先回りをする人は――
たんに対話を拒んでいるだけではなくて――
自分が嫌っている同調圧力を――
相手に積極的にかけているに等しいのです。
注意が必要です。