――もし願いごとが何か一つだけ叶えられるとしたら、何を叶えるか。
と訊かれ、
――「人と人とが争わなくなるように……」という願いごとを叶える。
と答えたら、
――それは「この世から人が一人もいなくなるように……」という意味か。
と訊かれ――
驚いて、
――いや、そんなつもりはない。なぜ、そんなふうに思ったのか。
と訊き返すと、
――争わない人は、もはや人ではない。
といわれ――
何も反論できなかった――
という話を聞いたことがあります。
……
……
たしかに――
有効な反論は難しそうですね。
……
……
では――
どうすれば良かったか――
……
……
なかなかに難しいと思いますが――
ひょっとしたら――
ちょっと願いごとを修正すると――
良かったかもしれません。
すなわち、「人と人とが争わなくなるように……」ではなくて、「人と人とが無意味に争わなくなるように……」と――
……
……
この修正案を天使や菩薩が聞いたなら――
たぶん、
――争いというものは、すべて無意味である。
と諭すでしょう。
が――
幸か不幸か――
人は、そうは考えません。
人は、争いを“意味のある争い”と“意味のない争い”とに分けたがるからです。
……
……
大変に残念ながら――
人は――
“意味のない争い”は、大いに嫌いますが――
“意味のある争い”は、けっこう好みます。