マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

なぜヒーローが公務員なのか

 日本の子ども向け特撮番組に詳しい外国人が、

 ――なぜヒーローが公務員なのか。

 と疑問を抱くことがあるそうです。

(ヒーローが公務員?)
 と――
 一瞬、合点がいかないのですが――

 たしかに――
 主人公が公的機関に属していると考えられる例が少なくはないのですね。

 例えば――
 科学技術を駆使した特別捜査が任務とみられる機関であったり――
 国際連合の関連機関とみられる組織の日本支部であったり――

(たしかに、これは公務員だろう)
 と感じます。

 なぜ日本のヒーローは公務員なのか――

 もちろん――
 日本のヒーローの全てが公務員ではありませんから――
 正しくは、

 ――なぜ日本のヒーローは公務員であることが嫌がられないのか。

 です。

 多くの外国人の感覚では――
 公務員というのは――
 その仕事が社会にとって重要であるということとは別に――
 公権力の従僕というイメージがあって――
 いわゆるヒーローのイメージにはなじみません。

 この問いに対する僕なりの答えは、

 ――この国の民は、長らく時の政権を“お上(かみ)”と呼んで、甘え親しんできたから――

 です。

 日本人は、歴史上、いわゆる“お上”と厳しく対峙したことがなく――
 また、“お上”を自ら倒したこともありません。

 近代以降に限ってみると――
 この国の体制変革は2度ありました。

 明治維新と昭和20年の終戦とです。

 明治維新では、京の“お上”(朝廷・薩長土肥)が江戸の“お上”(徳川幕府)を倒しました。
 昭和20年の終戦では、外国の“お上”(アメリカ)が帝都の“お上”(大日本帝国政府・軍部)を倒しました。

 いずれも、時の政権を転覆させたのは、この国の民ではありません。

 近代以前を振り返ってみても――
 この国の民が“お上”と厳しく対峙した事例は見当たりません。

 いわゆる百姓一揆などで“お上”に激しく立てつくことはあっても、“お上”に取って代わろうとした事例は見当たらないのです。

 つまり――
 この国で“お上”を倒し、あるいは倒そうとしてきたのは――
 あくまで、別の新しい“お上”か、この国とは基本的には関係のない外国の“お上”なのですね。

 もし――
 この国の民が一度でも“お上”と厳しく対峙し、かつ“お上”を自ら倒そうとしていれば――
 ヒーローが公務員であることは嫌がられたでしょう。

 そもそも、

 ――お上

 という呼び方も――
 その時に廃れていたはずです。