――策士、策に溺れる。
といいますね。
――策を弄することに長けている者は、策を弄しすぎて取り返しのつかない失敗をする。
くらいの意味です。
この言葉――
僕は字義矛盾ではないかと思っています。
どういうことか――
……
……
――策
は――
当たり前ですが――
人が考える謀略です。
人が考えることですから――
策が成功する確率は必ずや100%未満です――失敗する可能性が常にゼロではない――
いま――
ある策士を想定しましょう。
この策士は非常に能力が高く、策を成功させる確率は95%であるとします。
この策士が連続して策を成功させる確率は、いくらか――
0.95×0.95≒0.90
で、約90%ですね。
では、3回連続して成功させる確率は?
0.95×0.95×0.95≒0.86
で、約86%です。
では、10回連続は?
同様の計算により、約60%です。
では、30回連続は?
約21%です。
では、100回連続は?
約1%です。
……
……
策を弄することに長けている者であれば――
この原理を理解していないわけがないと思うのですよね。
つまり――
策を弄することに長けている者であれば、策を弄しすぎることは、まずありえません。
逆に――
策を弄しすぎる者は、策を弄すことに長けていない、ということです。
ですから、
――策士、策に溺れる。
は字義矛盾だと思うのです。
……
……
真の策士は――
策の原理的な危険性をよくわかっています。
よって――
そんなに何回も策を弄さない――
ここぞという時にしか弄さない――
よって――
真の策士は、世間から策士とは決して思われていません。
ふだんは策をほとんど弄さないからです。