マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

やはり戦いの物語の主人公は女性に限る

 ――戦いの物語の主人公は女性に限る。

 ということを――
 先々週の『道草日記』(2018年2月24日)から延々と語っていて――

 だいぶ満足してきたので――
 そろそろ、やめようかと思っていますが――(笑

 ……

 ……

 そもそも――
 なぜ紀元前2~3世紀のカルタゴの将軍ハンニバル・バルカの人生を持ち出してきたかというと――
 それは、

 ――戦いの物語の主人公は女性に限る。

 ということをもう少し具体的に語りたくなったからです。

 ハンニバル・バルカの戦いの物語は、リアルに描くと、あまりにも凄惨すぎて――
 なかなかリアルには描けません。

 そこで――
 主人公を女性に変えて――
 例えば、

 ――クラリス・バルカ

 という女性に変えて――
 クラリス・バルカの戦いの物語をリアルに描けばよい――
 との結論に至りました。

 その物語は――
 少なくとも僕にとっては、かなり好ましい物語なのですが――

 クラリス・バルカが、最後は好敵手・大スキピオ改に敗れるという事象の関係上――
 どうしてもハッピーエンドとはいきません。

 もちろん、大スキピオ改の側からみれば、ハッピーエンドといえますが――
 その彼と戦い続けたクラリス・バルカの側からみれば、バッドエンドといわざるをえないのです。
 
 ということは――
 クラリス・バルカの物語は、まともに扱ったのでは、一般受けのしにくい物語にしかならない――
 ということです。

 そこで――
 もし、クラリス・バルカの物語を一般受けのしやすい物語に変えようと思ったら――
 少し工夫がいります。

 どうすればよいか――

 簡単です。

 基となるハンニバル・バルカの物語を――
 相手役である大スキピオ――異称スキピオ・アフリカヌス――の物語に書き換え――
 かつ、その主人公を女性にすればよい――

 ……

 ……

 今――
 この物語の主人公を、


 と呼びましょう。

 クラリススキピオは、ハンニバル・バルカ(それとよく似た人物)の10歳ほど年下です。

 史実の大スキピオは、史実のハンニバル・バルカほどに超人的な働きをしたわけではありませんから――
 クラリス・バルカほどに荒唐無稽なキャラクター造形は不要です。

 もちろん――
 美しい女性であるほうが物語は映えますが――
 不老不死などの設定は必ずしもいりません。

 ハンニバル率いる数万の軍が、冬のアルプス(それとよく似た山脈)を越えてイタリア(それとよく似た半島)に侵入してくると――
 クラリスは、カンナエ(それとよく似た地)で、若き女性武官の一人として、ハンニバルの軍とぶつかります。

 そこで、ハンニバルの天才的な用兵術を目の当たりにし、

 ――恐ろしい人……。

 と慄きます。

 ところが――
 重装歩兵を指揮するハンニバルの姿態が遠目に入り――
 クラリスは僅かに目を見開きます。

 ――恐ろしいけど、優しそうな人……。

 クラリスは、ハンニバルの横顔に――
 無慈悲な包囲殲滅作戦からは窺いしれない別の表情を見出すのです。

 そして――
 後年――
 ザマ(それとよく似た地)で会談する際には、

 ――貴男は、本当は優しい人です。違いますか。

 と呼びかける――

 ――お前の目は節穴だ。

 と、うそぶくハンニバルに、

 ――この戦いで私が負けたら、逃げも隠れもしない。どうぞ、私の身を好きにしてください。ただし――

 クラリスは、ハンニバルを正面に見据え――
 こう告げます。

 ――もし私が勝ったら、私は貴男を赦す。貴男の優れた才覚を、これからは、どうか、軍事ではなく、政治に使ってください――貴男の国の人々のために――そして、世界中の国の人々のためにも――

 ――莫迦な。

 ――私は本気です。

 ……

 ……

 後年の失脚については――

 自分が赦したハンニバルが結局は亡命したことを自身の外交方針の過ちとみなし、潔く身を退く――
 ということにします。

 そして――
 例の2回目の会談では――

 逃亡中のハンニバルを――
 クラリスは、わざわざ身の危険を冒して庇うことで実現します。

 ――なぜ俺にかまう?

 と詰るハンニバルに、

 ――いったでしょう、私は本気だって……。

 と受け流すクラリス――

 そして――
 一緒に逃げる途中で――
 クラリスハンニバルに問うのです。

 ――あなたにとって、史上最高の戦術指揮官は誰?

 と――

 ハンニバルは、稀代の大王の名や、その後継者の名を挙げたあと、

 ――3番目は私だ。

 と答えます。

 すると――
 クラリスは不服そうに、

 ――貴男が3番目?

 と応じます。

 ――おかしいか。

 を気色ばむハンニバルに、

 ――だって、貴男、私に負けたでしょ?

 と意地悪く笑うクラリス――

 ハンニバルは、仏頂面で答えます。

 ――もし私が勝っていたら、史上最高の戦術指揮官は私になっていた。

 それをきいて――
 クラリスが一言――

 ――子どもみたい――

 そのとき――
 ハンニバルは初めてクラリスに笑顔をみせるのです。

 ――そうかもしれぬ。

 と――

 ……

 ……

 クラリススキピオの物語も――
 たぶん、そんなに悪くはありません。