――気分は、隠微で持続的な感情であるために、当人の言動などに多発的で多面的な変化をもたらす。
ということを――
きのうの『道草日記』で述べました。
一方、
――情動は、顕著で突発的な感情であるために、当人の言動などに一時的で一面的な変化しかもたらさない。
とも述べました。
……
……
以上を踏まえると――
気分は、情動よりも、はるかに、
――共鳴しやすい
という特徴が挙げられます。
一時的で一面的な2つの事象が、互いに影響を及ぼしあうことは、なかなかに稀有ですが――
多発的で多面的な2つの事象が、互いに影響を及ぼし合うことは、そんなに稀有ではありません。
よって――
例えば――
ある共同体を考えたときに――
そこで注目されるべきは――
その共同体を構成する個人一人ひとりの情動ではなく、気分のほうである――
ということになります。
その共同体の多数が、ある気分を抱いているときに――
その気分は、共同体の雰囲気を、あっという間に支配しうるのです。
同じ気分を抱いている個人が、そんなに多数でなくても――
注意は必要です。
たとえ少数であっても――
その気分が、互いに影響を及ぼしあうことによって、有意に増幅され、共同体の雰囲気が支配され、共同体の総意が決定される――
ということは――
容易に起こりえます。
このことは――
次のような具体例を想像すれば――
わかりやすいでしょう。
ある職場に10人が勤務しているとします。
もし――
そのうちの7人が憂鬱でいれば、職場の雰囲気は、かなり鬱屈したものになるでしょう。
当然です。
が――
たとえ――
憂鬱なのが3人だけであっても、職場の雰囲気は、やはり鬱屈したものになるに違いない――
憂鬱な3人の言動が――
互いに影響を及ぼし合うことで、ますます憂鬱になっていき――
やがて――
その3人の言動によって、残りの7人の言動が、より強く影響を受け始める――
つまり――
憂鬱なのは、たった3人であっても――
時と場合とによっては、その“たった3人”が職場全体の雰囲気を十分に支配しうる――
そういうことです。
……
……
ここでは――
わかりやすさのために、
――憂鬱
という気分を取り上げましたが――
他の気分でも――
起こりうる事態は同じです。
――高揚
でも、
――不機嫌
でも同じ――
一部の人たちの気分が互いに影響を及ぼしあうことで――
その人たちの属する共同体の雰囲気が支配されうる――
ということです。
共同体を支配する気分が――
正の気分なら、大いに結構なのですが――
負の気分だと、かなり困ったことになります。
一部の人たちの負の気分に――
共同体全体が振り回されることになるからです。
以上のことは――
とくに共同体の総意の形成を主導する立場にある人は――
肝に銘じておく必要があります。