マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

「Y染色体が受け継がれてきた」に意味はあるか

 継体天皇以後の天皇家は、同じ血筋とみてよい――
 ということを――

 きのうの『道草日記』で述べました。

 ……

 ……

 ここでいう、

 ――天皇家の血筋

 とは、

 ――男系の血筋

 です。

 「男系」というと誤解を招きやすいので、

 ――父系

 といいかえます。

 ――継体天皇以後の天皇家は、同じ血筋――

 というのは、

 ――継体天皇以後、天皇家の父系が途絶えたことはない。

 という意味です。

 このことを――
 ある近代生物学の概念を絡めて指摘する人たちがいます。

 曰く、

 ――天皇家Y染色体が脈々と受け継がれてきたのだ。

 という指摘です。

 Y染色体というのは、ヒトの性別を決める性染色体です。
 この染色体をもっている個体は男性となり、もっていない個体は女性となります。

 ヒトの性染色体は一対2本です。

 男性は、

  X染色体1本
  Y染色体1本

 から成る一対で――
 女性は、

  X染色体2本

 から成る一対です。

 それぞれ両親から1本ずつ受け継いでの一対です。

 つまり――
 息子のY染色体は、父親から受け継いだY染色体であり――
 孫息子のY染色体は、父方の祖父から受け継いだY染色体なのです。

 よって――
 父方の血筋をたどっていけば、Y染色体の受け継がれをたどっていくことになります。

 この意味で――
 「天皇家Y染色体が脈々と受け継がれてきたのだ」という指摘は、誤りではありません。

 が――
 僕は――

 (そんな主張に意味はない)
 と思っています。

 なぜか――

 ……

 ……

 Y染色体の概念が共有されていないからです。

 現代と過去とで共有されていない――

 20世紀や21世紀の人々は――
 たしかに、「Y染色体」という概念を知っている――

 が――
 6世紀の人々はどうか――
 16世紀の人々はどうか――

 もちろん、「Y染色体」という概念を想像すらできなかったはずです。

 染色体の概念が確立されたのは、19世紀のヨーロッパでした。

 ……

 ……

 僕は――
 これまでに天皇家の人々や天皇家の関係者の人々が――
 天皇系の父系が途絶えないよう、さまざまに知恵を絞ってきたと考えています。

 その目的意識に現代的な妥当性があるかどうかは別にして―― 
 それは、並大抵の努力ではなかったと感じています。

 が――
 そうした努力を――
 近世以前――
 世代を越えて重ねてきた人々の脳裏には、「Y染色体」の概念は微塵もなかったはずなのです。

 よって――
 「天皇家Y染色体が脈々と受け継がれてきたのだ」という主張に意味はない、と――
 僕は考えます。

 もし――
 6世紀や16世紀においても、Y染色体の概念が広く知られていたのであれば――

 (たしかに、そういえなくもないけれど……)
 とは思いますが――

 そんな史実はありません。