今川(いまがわ)義元(よしもと)は――
人の気持ちがよくわかる人ではなかったか、と――
僕は思っています。
人の話によく耳を傾け――
人をよく信じ、よく任せ――
最後の責めは一身に負う――
そんな――
好人物ではなかったか、と――
僕は思っています。
そんな好人物ぶりが――
桶狭間(おけはざま)の戦いの顛末で雲散霧消してしまったのではないか――
そんなふうに――
思っています。
……
……
TVドラマや映画などで描かれる――
今川義元・最期の場面は――
見苦しいものばかりです。
戦勝気分に浸って油断しているところを――
織田信長の兵に急襲され――
輿で逃げ惑った挙句に刺し殺される――
といったものばかり――
そうではなくて――
例えば――
……
……
――なんじゃ? 騒がしいの。
――ただ今、みて参ります。
――まさか尾張の兵ではあるまいの。
――申し上げます! 織田方の兵が押し寄せて参ります!
――まこと尾張の兵か! どこの手の者か?
――織田弾正忠(信長)が旗本と見受けます!
――弾正忠? まさか……。
――ここは、いったんお退き下され!
――おぉ、あの旗印は、たしかに五つ木瓜――弾正忠、見事な采配じゃ。
――殿!
――是非に及ばず。この首、弾正忠にくれてやるわ。
――なりませぬ!
――もう、よい。勝負はついておる。
……
……
そんな泰然とした今川義元の最期が、たまには描かれても――
悪くはないと思うのですが――
いかがなものでしょう。
……
……
ちょっと泰然としすぎていますかね。