マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

気分の浮き上がりの問題

 気分が沈み込んでいるときは――
 ツラくて苦しいのですね。

 逆に――
 気分が浮き上がっているときは――
 ラクで楽しいのです。

 ですから――
 人は、概して、気分の沈み込みを嫌います。

 気分の浮き上がりを好む――

 ……

 ……

 が――

 それは落とし穴です。

 人は――
 気分が沈み込んでいるときは、慎重になります。

 が――
 気分が浮き上がっているときは、大胆になります。

 しばしば大胆になりすぎて――
 余計なトラブルを招きます。

 ……

 ……

 この話をするときに――
 いつも思い出すことがあります。

 大学時代のことです。

 僕は――
 医学生として、様々な病院の様々な診療科で実習を受けていました。

 そのときに――
 何かミスをして指導医から注意をされた後は――
 当然ながら、気分は沈み込んで、ツラく、苦しくなるのですが――
 その後しばらくは、まったくミスをしなくなります。

 逆に――
 何か良いことをして指導医から褒められた後は――
 当然ながら、気分は浮き上がり、ラクになって楽しくなるのですが――
 その後すぐに、大きなミスをします。

 卒業の1~2年前――
 外科系の診療科で実習を受けているときに――
 指導医から褒められました。

 「きみは医学生として実に好ましい態度だね」
 といわれたのです。

 「ありがとうございます!」
 と嬉しそうに返事をしたのですが――

 その3分後くらいには、大きなミスをしました。

 手術中の患者さんの傷口の近くをうっかり不衛生にしてしまったのです。

 「これだ――」

 指導医は舌を打ちました。

 僕は、「すみません」の一言も出ずに、押し黙ってしまいました。

 そんな医学生を気の毒に思ったのか――

 「いや、きみだけじゃないんだ。学生は、たいてい褒めるとヘマをする」

 ……

 ……

 あれから20年くらいが経ち――

 今の僕は、
 (あのときの指導医がいっていたことは、気分の浮き上がりの問題だろう)
 と考えています。

 たいていの人は――
 目上の人から褒められたら、嬉しくなって、気分は浮き上がります。

 が――
 気分が浮き上がれば――

 人はミスをしやすくなるのです。