マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

遅すぎた

 ウクライナ政府の最高指導者が――

 2022年のロシア政府によるウクライナ侵略を防ぐには――

 どうすべきだったか。

 

 一つは――

 ロシア政府の最高指導者が、自分の政治生命を奪おうとは思わぬように振る舞うべきだった。

 

 そのために――

 ロシア政府の最高指導者と、あえて誼(よしみ)を結ぶなどの、

 ――わかりにくい政治

 を厭(いと)わぬべきだった。

 

 もう一つは――

 ロシア政府の最高指導者が、自分の政治生命を奪おうと思っても、「まず奪えそうにない」と思わせる状況を作るべきだった。

 

 具体的には――

 自分自身の国家指導者としての胆力の確かさを――

 国の内外に対し、事前に知らしめておくべきだった。

 

 ロシア政府が武力行使に出るくらいでは、とうてい逃げ出すはずがない――

 ということを悟らせておくべきだった。

 

 ロシア政府が派遣をした特殊部隊の精鋭が、キーウの政庁の中枢を目指した時に――

 ウクライナ政府の最高指導者は――

 逃げなかった。

 

 逃げずに戦った――

 情報戦を巧みに闘った。

 

 その勇気は、組織の指導者として、見事である。

 人として簡単にできることではない。

 

 が――

 

 その稀有の才能を世に知らしむる時期が――

 遅すぎた。

 

 もう少し早ければ――

 ロシア政府の最高指導者が、特殊部隊の精鋭をキーウに差し向けることはなかった。

 

 何万、何十万という数の人たちが殺し合いを始める必要はなかった。

 

 『随に――』

どうすべきだったか

 2022年のロシア政府によるウクライナ侵略は――

 ロシア政府の最高指導者が、ウクライナ政府の最高指導者の政治生命を奪いに行ったために――

 起こった。

 

 ロシア政府の最高指導者は――

 それを奪いに行くべきではなかった。

 

 奪いに行き――

 奪えず――

 国家間の殺し合いが始まった。

 

 その非は自明であろう。

 

 では――

 ウクライナ政府の最高指導者は――

 どうすべきだったか。

 

 一つは――

 ロシア政府の最高指導者に、自分の政治生命を奪おうと思わせないようにすべきだった。

 

 ロシア政府の最高指導者と、ある程度は誼(よしみ)を通じ――

 時には、対話から逃げ――

 決して戦いにはならぬように、のらりくらりと遣り過ごすべきだった。

 

 そうすることで――

 政治は、わかりにくくなる。

 

 ――なぜ戦わぬのか。

 

 ――なぜ逃げるのか。

 

 人の世の大多数を占める凡人たちから、厳しい疑義の声が上がったろう。

 

 ウクライナ政府の最高指導者が、非凡の政治家であれば――

 その疑義の声をかわし続けて――

 なおも最高指導者の地位に留(とど)まり――

 

 ロシア政府に対しては――

 今もって、大規模な侵略の口実を与えていなかったはずだ。

 

 実際は――

 そうではなかった。

 

 『随に――』

政治の“殺し合い”から国家間の殺し合いへ

 ――政治の“殺し合い”

 は、しばしば、

 ――国家間の殺し合い

 と化す。

 

 ――政治の“殺し合い”

 の「殺し合い」とは、

 ――政治生命の遣り取り

 を含む。

 普通は、

 ――命の遣り取り

 は含まぬ。

 

 が、

 ――国家間の殺し合い

 の「殺し合い」とは、

 ――命の遣り取り

 を指す。

 

 何万、何十万という人たちの間での、

 ――命の遣り取り

 を指す。

 

 ――政治の“殺し合い”

 に熱心な者は――

 それが、

 ――国家間の殺し合い

 と化す危険性を――

 しばしば低く見積もり過ぎる。

 

 その結果、

 ――国家間の殺し合い

 を招く。

 

 2022年のロシア政府によるウクライナ侵略が――

 そうであった。

 

 当初――

 ロシア政府の最高指導者は、ウクライナ政府の最高指導者の政治生命を奪いに行った、と――

 いわれている。

 

 ――簡単に奪える。

 と判断をしたらしい。

 

 ウクライナ政府の最高指導者は――

 喜劇役者の出身である。

 

 ――武力行使に出れば、逃げ出すに違いない。

 との読みがあったのだろう。

 

 政治家が逃げ出せば――

 政治生命は断たれる。

 

 逃げ出させてしまえば――

 政治生命は奪える。

 

 実際には違った。

 

 ウクライナ政府の最高指導者は――

 悲劇役者さながらの悲壮感を醸し出し――

 政庁の中枢に留(とど)まった。

 

 情報通信を用いた演出は巧であった。

 

 多くのウクライナ人たちが勇気を奮い立たせ、闘志を抱いた。

 

 そして、

 ――国家間の殺し合い

 が始まった。

 

 ――政治の“殺し合い”

 を、

 ――国家間の殺し合い

 に化けさせた責任の一端が――

 ロシア政府の最高指導使者にあることは確かだ。

 

 が――

 もう一端は――

 ウクライナ政府の最高指導者にもあった。

 

 彼は殺し合いから逃げなかった。

 

 逃げずに戦った。

 

 その姿勢は、組織の指導者としては、責任感に溢れている。

 

 が――

 政治家としては、どうか。

 

 少なくとも、

 ――旧態依然の平凡

 とはいえた。

 

 『随に――』

非凡な政治家は――

 平凡な政治家は――

 逃げずに戦おうとする。

 

 が――

 

 非凡な政治家は違う。

 

 できるだけ戦わずに、うまく逃げようとする。

 

 政治の“殺し合い”を避けようとする。

 

 なぜ――

 それを避けようとするのか。

 

 ……

 

 ……

 

 政治の“殺し合い”は――

 しばしば国家間の殺し合いと化すからである。

 

 国家間戦争である。

 

 国家間戦争では――

 時に何万、何十万という数の人々が殺される。

 

 平凡な政治家は――

 それを「良し」とする。

 

 ――それが政治だ。

 と嘯(うそぶ)く。

 

 その嘯きに――

 人の世の大多数を占める凡人たちは、

 ――わかりやすい。

 と賛意を示す。

 

 これに対し――

 非凡な政治家は、

 ――そんな政治は間違っているのでは?

 と訝(いぶか)しむ。

 

 その訝しみに――

 人の世の大多数を占める凡人たちは、

 ――わかりにくい。

 と疑義を示す。

 

 それでも――

 非凡な政治家は諦めぬ。

 

 なぜか。

 

 それが――

 人類史上、未解決の課題であるからだ。

 

 ……

 

 ……

 

 ほんの3年くらい前まで、

 ――国家間戦争は、21世紀以降は起こりえぬ。

 と信じられていた。

 

 それを――

 2022年の東欧の戦禍が覆す。

 

 ロシア政府によるウクライナ侵略である。

 

 ただし――

 ロシア政府はウクライナを国家とは認めていない――おそらく、本音では――

 

 ……

 

 ……

 

 政治が“殺し合い”に流れ――

 しばしば国家間戦争が起こり――

 時に何万、何十万という数の人々が殺される――

 

 こうした事態を――

 いかに避けるか。

 

 それは――

 人類史上、今も現在進行中の課題である。

 

 『随に――』

平凡な政治家は――

 政治家は――

 政治をわかりやすくするために、

 ――殺し合い

 を厭(いと)わぬ。

 

 それが――

 本物の「命」の遣り取りか、政治家の「政治生命」の遣り取りかは――

 別にして――

 

 ……

 

 ……

 

 特に、

 ――平凡

 たらんとする政治家は、

 ――政治に“殺し合い”は必要だ。

 と考える。

 

 ――それが政治だ。

 と――

 

 ……

 

 ……

 

 実際に――

 そうであろう。

 

 でなければ――

 近代以前の政治で――

 あれほど多くの血が流れた理由を説き明かせぬ。

 

 政治は――

 それを周りで観ているだけの者たちにとって、わかりやすくあるために――

 血塗(ぬ)られてきた。

 

 そんな政治に――

 平凡な政治家は疑問を抱かぬ。

 

 ――本来、政治に“殺し合い”は不要かもしれないが、それでは政治を周りで観ているだけの者たちにとっては、わかりにくい。よって、“殺し合い”は必要である。必要悪なのである。

 と――

 

 ゆえに――

 平凡な政治家は――

 逃げずに戦おうとする。

 

 ――逃げてはならぬ、戦わねばならぬ、政治をわかりやすくすために――

 と――

 

 その帰着に思いをよせることは――

 おそらくは、ない。

 

 『随に――』

政治をわかりやすくする

 政治は“殺し合い”が、わかりやすい――

 その「殺し合い」で遣り取りをされるのが、本物の「命」か、政治家の「政治生命」かは措くとして――

 

 ……

 

 ……

 

 つまり、

 ――政治では邪魔者の“命”を奪っておけ。簡単なことだ。

 というわけである。

 

 これに対し――

 

 邪魔者と誼(よしみ)を通じて味方にするとか、邪魔者のもとを離れて関りを断つとかいった試みは――

 どうにも、わかりにくい。

 

 ――なぜ戦わぬのか。

 

 ――なぜ逃げるのか。

 

 ……

 

 ……

 

 少し考えれば、わかることである。

 

 が――

 

 政治を周りで観ているだけの者たちにとっては――

 どうにも、わかりにくい。

 

 ――なぜ戦わぬのか。

 

 ――なぜ逃げるのか。

 

 ……

 

 ……

 

 答えは――

 

 殺し合わぬため――

 

 ……

 

 ……

 

 政治では――

 些細な諍(いさか)いを機に、

 ――殺し合い

 が横行をする。

 

 その恐ろしさをよくわかっている者は――

 できるだけ戦わず、うまく逃げながら――

 政治を行う。

 

 が――

 

 政治を周りで観ているだけの者たちには――

 その凄さ、巧みさが伝わらぬ。

 

 さほど高くは評価をされぬ。

 

 逆に――

 逃げずに戦おうとする者は――

 その強さ、勇ましさが伝わりやすい。

 

 実際以上に高く評価をされもする。

 

 ゆえに――

 政治家は“殺し合い”が厭えぬ。

 

 あえて“殺し合い”を厭わぬことで、

 ――政治をわかりやすくする。

 と考える。

 

 果たして――

 わかりやすくなっているかどうか――

 

 『随に――』

政治生命の殺し合い

 近代以前までの政治では――

 殺し合いが普通であった。

 

 あるいは、

 ――殺し合いが厭(いと)われることはなかった。

 というほうが穏当かもしれぬ。

 

 ……

 

 ……

 

 現代は少し違う。

 

 少なくとも現代の民主主義の国家では――

 殺し合いは厭われる。

 

 政治に携わっていて――

 誰か邪魔者が立ちはだかれば――

 ひとまず、その者と誼(よしみ)を通じるか――

 あるいは、その者のもとを離れるか――

 

 それが――

 現代の民主主義の国家では――

 標準である。

 

 邪魔者の命を奪うようなことは――

 普通はせぬ。

 

 が――

 

 その「命」を、

 ――政治生命

 と置き換えれば――

 そうでもない。

 

 現代の民主主義の国家においても――

 その邪魔者が政治家であるならば――あるいは、これから政治家になろうとしているのであれば――

 その者の政治生命を絶とうとする試みは――

 特段、稀ではない。

 

 権力闘争を仕掛け――

 執政者としての地位を奪ったり――

 醜聞を洩らすことで――

 選挙への立候補を諦めさせたり――

 

 ……

 

 ……

 

 そのようにして――

 邪魔者の“命”――邪魔な政治家の政治生命――を奪うことは――

 現代の民主主義の国家においても――

 しばしば試みられている。

 

 少なくとも――

 邪魔者と誼を通じたり、邪魔者のもとを離れたりすることよりは――

 頻繁に試みられている。

 

 なぜか。

 

 わかりやすいからである。

 

 人の世の大多数を占める凡人たちにとって、

 ――政治生命の殺し合い

 は、わかりやすい。

 

 ゆえに――

 支持をされやすい。

 

 この点で――

 近代以前の国家も現代の民主主義の国家も――

 大きな違いはない。

 

 『随に――』

政治は殺し合いが――

 政治では殺し合いが、わかりやすい。

 

 なぜか。

 

 それは――

 政治の本態を考えれば、わかる。

 

 ……

 

 ……

 

 ――政治の本態

 とは、

 ――社会の利害調整

 である。

 

 利益は公正に分配をし――

 損害は公平に分散をする――

 

 その“調整”を試みる者の前に――

 必ず立ちはだかるのが、

 ――邪魔者

 である。

 

 ――奴がいるから利益が公正に分配をされない。

 

 ――奴がいるから損害が公平に分散をされない。

 

 ……

 

 ……

 

 そういう“邪魔者”に巧く対処をする方法は3つ――

 

 1つめは――

 その“邪魔者”と誼(よしみ)を結ぶ。

 

 敵を味方にすれば、敵はいなくなる。

 

 2つめは――

 その“邪魔者”のもとを離れる。

 

 敵と関わらなければ、敵はいなくなる。

 

 3つめは――

 その“邪魔者”の命を奪う。

 

 敵を殺してしまえば、敵はいなくなる。

 

 これら3つの方法のうち――

 1つめと2つめとは難しい。

 

 そして――

 わかりにくい。

 

 3つめの方法も難しい。

 

 が――

 わかりやすい。

 

 ……

 

 ……

 

 かくして――

 

 政治では殺し合いが横行をする。

 

 そして――

 そうなることで――

 さらに政治は、わかりやすくなっていく――悲しいことに――

 

 少なくとも近代以前までは、そうであった。

 

 『随に――』

政治史は恐ろしい

 政治は、

 ――平凡

 を旨とする。

 

 よって――

 政治史は、わかりやすい。

 

 裏を返すと、

 ――政治史に疎い。

 は許されぬ。

 

 わかりやすいことをわからぬままにしておくのは――

 知的誠実さに欠ける態度だ。

 

 とはいえ――

 

 ……

 

 ……

 

 政治史は恐ろしい。

 

 近代以前――

 政治の多くは、殺し合いで決まった。

 

 近代以後も――

 しばしば殺し合いで決まっている。

 

 東欧のウクライナをみれば、わかる。

 中東のガザをみれば、わかる。

 

 政治史は血(ち)塗(ぬ)られた人々の記録である。

 

 ……

 

 ……

 

 わかりやすい政治史が血塗られるのは――

 どうしたわけか。

 

 ……

 

 ……

 

 わかりやすいから――

 血塗られる。

 

 誤解を恐れずにいえば――

 

 殺し合いが、わかりやすいのである。

 

 凡人たちにとって――

 殺し合いは、わかりやすい。

 

 殺し合いを避けるために――

 殺し合い以外の、ありとあらゆる手を尽くす――

 

 そういう政治は――

 凡人たちには、わかりにくい。

 

 支持をされぬ――

 とはいわぬ。

 

 支持はされる。

 

 殺し合いを望む凡人など、いようか。

 

 が――

 

 殺し合いは、わかりやすい。

 

 ゆえに――

 政治は殺し合いとなる――少なくとも、近代以前は、そうであった。

 

 『随に――』

政治史を知るのは易しい

 文化史は――

 概して非凡の者たちによって紡がれている。

 

 だから――

 難しい。

 

 政治史は違う。

 

 人の世の大多数を占める凡人たちと――

 それら凡人たちの総意を汲み取ることに長けた英傑たちによって――

 紡がれている。

 

 だから――

 易しい。

 

 ……

 

 ……

 

 凡人たちは――英傑たちも含め――互いに互いの理解が可能である。

 

 そして――

 

 政治の活動は――

 常に、

 ――平凡

 を旨とする。

 

 それは、

 ――平凡

 であればあるほどに――

 凡人たちによって、より良く理解をされる。

 

 より多くの凡人たちによって、より良く理解をされる活動は――

 政治として、より優れている。

 

 政治とは――

 そういうことである。

 

 ……

 

 ……

 

 凡人たちだけではない。

 

 非凡の者たちも――

 より良く理解をしうる。

 

 学術に非凡の者も――

 芸能に非凡の者も――

 産業に非凡の者も――

 こと政治においては――

 たいていは凡人たちの一人である。

 

 ゆえに――

 政治に関われる。

 

 ……

 

 ……

 

 ――非凡は非凡を知る。

 の命題は偽だ。

 

 が――

 

 ――凡人は凡人を知る。

 は真である。

 

 ゆえに――

 政治史は、わかりやすい。

 

 裏を返すと――

 

 ――政治史に疎い。

 は許されぬ。

 

 それは――

 凡人として人の世で果たすべき責務の――

 放棄である。

 

 『随に――』