マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

イギリス政府の方針転換の背景

 いわゆる新型コロナ・ウイルス感染症に対する政策は――

 当初、主に2つに分類されえました。

 

 ――感染急増の緩和

 と、

 ――感染拡大の抑圧

 とです。

 

 “感染急増の緩和”とは、

 ――感染者が爆発的に増えるのを少しでも遅らせることで、総感染者数を減らし、ひいては感染死者数を減らす。

 という政策です。

 

 一方――

 “感染拡大の抑圧”とは、

 ――感染者が少しでも増えるのを防ぐことで、総感染者数をゼロに近づけ、ひいては感染死者数をゼロにする。

 という政策です。

 

 すぐにおわかりのように――

 “感染急増の緩和”では――

 できるだけ普段の日常に近い生活が続けられるという利点がある一方、ある程度の感染死が発生することを容認するという欠点があり――

 “感染拡大の抑圧”では――

 感染死を防げるかもしれないという希望を捨てなくてよい利点がある一方、普段の日常から懸け離れた生活を強いられるという欠点があります。

 

 “感染急増の緩和”は、実行しうる現実的な政策として、当初は、感染症政策の専門家らによって支持されていました。

 

 が――

 3月初旬を過ぎたあたりから、

 ――「実行しうる現実的な政策」とはいえない。

 との見方が、大勢を占め始めたようです。

 

 むしろ、“感染拡大の抑圧”のほうが、

 ――実行しうる唯一の現実的な政策

 である、と――

 

 ……

 

 ……

 

 象徴的であったのは、イギリス政府の決断です。

 3月12日に、政権の最高責任者が記者会見の場で“感染急増の緩和”を表明し、相応の総感染者数や感染死者数が出る見込みであることを公表して、イギリス国民に理解を求めました。

 が、1週間足らずで、事実上の撤回に追い込まれています。

 

 その理由は、

 ――イタリアなどの他国での感染の状況を見極めたところ、“感染急増の緩和”は期待できないことが判明した。

 とされていますが――

 おそらくは、表向きの理由です。

 

 本当の理由は、

 ――相応の感染死者数が出る見込みであることにイギリス国民の大半が納得しえなかったから――

 でしょう。

 

 よって――

 イギリス政府は、

 ――“感染拡大の抑圧”を目指すことで、“感染急増の緩和”を試みる。

 という方針に転換をしたのではないか――

 そのように、僕は思います。

 

 もう1つ――

 本当の理由があります。

 

 それは、

 ――普段の日常から懸け離れた生活を強いられることに、イギリス国民の大半が納得しそうであったから――

 です。

 

 今回のイギリス政府の方針転換は――

 たとえ、感染症政策としては合理的であっても、人々の納得が得られそうにない政策であれば、とうてい実行に移せるものではない――

 ということを示唆します。

 

 逆に――

 たとえ、感染症政策としては非合理的であっても、人々の納得が得られそうな政策であれば、実行に移すことを考えてもよい――

 ということを示唆します。

 

 何をもって「合理的」あるいは「非合理的」とみなすかは難しいところですが――

 少なくとも、今回のイギリス政府の決断は、

 ――軽症者や無症状者が過半を占めると考えられる以上、“感染急増の緩和”のみが到達しうる目標であり、“感染拡大の抑圧”は到達しえない目標とみざるをえないのだが、もし、“感染拡大の抑圧”を目指すことで、“感染急増の緩和”を試みることができるのであれば、それこそが“実行しうる唯一の現実的な政策”である。

 との見方が背景にあったのではなかろうか――

 そのように僕は感じています。