――脳を含む神経系は、今日のコンピュータが行っている演算とは全く別の何かを、人知の及ばぬ原理に基づき、黙々と行っているに違いない。
ということを、きのうの『道草日記』で述べました。
脳を含む神経系について、
演算 × 配線 = 体験
の図式を考えるときに――
その図式に含まれている「演算」という言葉は、
――今日のコンピュータが行っている演算
ではなく、
――今日のコンピュータが行っている演算とは全く別の何か
を指しています。
――全く別の何か
なのですから――
本来、それを安易に、
――演算
と呼ぶのは厳密には好ましくないのですが――
少なくとも21世紀序盤の現代において――
それをいい表すのに適切な言葉として――
僕らは、
――演算
以外の言葉を知りません。
いいかえるならば――
僕らは、コンピュータとの相同性に着目をすることによってしか、脳を含む神経系の作動の実態をいい表せていないのです。
むしろ――
コンピュータとの相同性に着目をすることの意義に首尾よく気づけたことこそを僥倖とみなすのがよいのでしょう。
……
……
今から20年以上前のこと――
当時、還暦を迎えたくらいのコンピュータ科学の専門家の方が――
その方が大学院生でいらした頃に――
仲間内で、
――「脳研究」といえば、今は医学者たちの領域だが、彼らにはコンピュータの視点がないからダメだ。オレたちが参入して脳研究を前へ進めよう。
と話し合っていた――
と述べていらっしゃったのを耳にしました。
おそらく、1970年代の頃の話でしょう。
その話を――
当時、医学生であった僕は、ばつが悪い思いで聞いていたのですが――
そのときに――
僕は明確に察することができたのです。
(脳を含む神経系は、コンピュータとは明らかに違った仕組みで作動しているはずだが、だからといって、コンピュータと似ていないわけではないので、その相同性に着目をしない脳研究は、今後、少なくとも医学界の外の研究者からは相手にされなくなる)
そのような見地から――
僕は、
――今日のコンピュータが行っている演算とは全く別の何か
を、あえて、
――演算
と呼ぶことにしています。