日本人は遊牧民族の侵略を殆ど受けていない。
ゆえに、遊牧民族を嫌わぬ。
が――
遊牧民族を嫌わぬだけではなくて――
むしろ好いている。
ある種の憧れのような好感情を抱いている。
これは、どうしたことか。
――侵略を受けていない。
ということだけでは説明はつかぬ。
……
……
この問いへの答えは難しい。
妙案はない。
……
……
が――
一つだけ空想を述べれば――
日本人が遊牧民族に好感情を抱くのは――
日本人の身に、遊牧民族の全遺伝情報(genome)の一部が流れているからではないか。
……
……
弥生期――
日本列島へは、中国大陸や朝鮮半島から、多くの移民たちが入った。
それら移民たちの中には――
かつての遊牧民を祖とする者たちが少なくなかったに違いない。
であるならば――
遊牧民族の全遺伝情報の一部が受け継がれているのは――
実は日本人だけではない。
中国大陸や朝鮮半島の人々の殆どには――
遊牧民族の全遺伝情報の一部が流れている――
ということになる。
つまり――
遊牧民族に好感情を持ち易かったのは、中国大陸や朝鮮半島の人々も同じであった――
が――
彼らは、日本人とは違って――
遊牧民族の侵略を繰り返し受けた――
よって――
日本人のように好感情を抱くことはせぬ――
そういうことではなかったか。
『随に――』