日本人は、農耕民族でありながら、遊牧民族を嫌わぬ。
むしろ、好いている。
一種の憧れさえ、抱いている。
これは、なぜなのか。
……
……
一つは、日本人は遊牧民族の侵略を殆ど受けていないからであろう。
農耕民族が遊牧民族を嫌うのは――
しばしば侵略を受けているからである。
むろん――
それは農耕民族のいい分であって――
遊牧民族にも同様のいい分はある。
それは、さておき――
通常――
農耕民族は遊牧民族と同じ土地を巡って争ってきた。
それゆえに――
遊牧民族を嫌う。
が――
日本人は――
そのように遊牧民族と争ったことが殆どない。
――全くないのか。
と問われれば――
――元寇がある。
と答えねばならぬ。
鎌倉後期――
日本人は、“草原の帝国”モンゴルの侵略を受けた。
が――
日本人にとって幸いなことに――
侵略は失敗に終わった。
遊牧民族に憎悪の感情を抱かずに済んだ。
もし――
侵略が成功を収めていたら――
日本人も今ごろ遊牧民族を嫌っていたろう――ヨーロッパ大陸や中国大陸の人々が遊牧民族を嫌っているように――
……
……
理由は――
それだけであろうか。
日本人が遊牧民族を嫌わぬ理由は――
他にもないだろうか。
『随に――』