マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

本能寺(10)

 ――本能寺(ほんのうじ)の変の謎

 といえば――

 

 ――明智(あけち)光秀(みつひで)の動機

 が、よく取り沙汰される。

 

 ――日本史上、最大の謎

 ともいわれる。

 

 が――

 果たして、そうか。

 

 ……

 

 ……

 

 あの夜――

 光秀が為したことは、

 ――下剋上

 である。

 

 特に珍しくはない。

 

 下剋上は、室町期から織豊期まで、幾度となる繰り返されている。

 

 下剋上の動機は――

 大まかにいえば、2つしかない。

 

 ――私怨

 か、

 ――義憤

 である。

 

 光秀は、どちらか。

 

 ……

 

 ……

 

 おそらくは――

 

 ――義憤

 

 光秀は、

 ――私怨

 で動きそうな男ではない。

 

 諸学に通じ、歌道・茶道に惹かれた。

 戦闘や政争では合理を貫き、謀略も厭わなかった。

 為政や撫民では慈愛を施し、遺徳が偲ばれもした。

 

 織田(おだ)信忠(のぶただ)が、

 ――父は真に天下人の器たりや。

 と疑う遥か前から――

 光秀は疑っていた――

 

 ――主は真に天下人の器たりや。

 

 ……

 

 ……

 

 ――否

 が光秀の結論であった。

 

 それは――

 おそらくは直観である。

 

 その直観の経路を埋める理屈が――

 史料で裏付けをされぬ。

 

 本能寺の変の後、徳川幕府の樹立に至るまで――

 政権が目まぐるしく変わり――

 公的な記録は殆ど残されていない。

 

 それゆえに、

 ――日本史上、最大の謎

 といわれる。

 

 が――

 

 それは、あくまでも直観の経路の謎であり――

 直観の出自の謎ではない。

 

 出自は明らかだ。

 

 ――我が主、天下人の器にあらず。

 

 その直観を――

 己の全てを賭け――

 光秀は信じた。

 

 そこに謎はない。

 

 『随に――』