人の意志の性質を表す価値評価の疑似空間は――
人の意志が、時の経過によって、どのように移ろうかを――
表すこともできる。
例えば、
――私の意志は、10代・20代から30代・40代にかけ、時代軸では革新から保守へ移ろい、世界軸では博愛から偏愛へ移ろい、精神軸では理知から厚情へ移ろった。
というように――
……
……
この移ろいは――
価値評価の疑似空間の原点が、凡人たちの意志の相加平均であることから――
あくまでも、相対的とわかる。
つまり――
人の世の大多数を占める凡人たちが形成をする総意に対し、いかに個の“人の意志”が移ろうのか――
ということである。
とはいえ――
凡人たちの意志の相加平均が、数十年くらいの時の経過で大きく変わるとは思えぬ。
価値評価の疑似空間において――
その原点に漂うような総意に与する人たち――凡人たち――の数は甚(はなは)だ多い。
この国について、いえば――
少なく見積もっても数百万――
世界全体について、いえば――
少なく見積もっても数億――
むろん――
そのような凡人たちの一人ひとりに着目をすれば――
その意志は大きく移ろう。
が――
集合としての凡人たちに着目をすれば――
その意志の相加平均――総意――は、ほとんど移ろわぬとみなせる。
よって――
個の“人の意志”の移ろいは――
ほぼ絶対的といえる。
統計力学の発想である。
統計力学では――
気体の分子の一つひとつの振る舞いには着目をしない。
一つひとつの振る舞いの統計をとることで――
それら数多の分子の集合としての振る舞いに着目をする。
例えば、定形の容器に収められた気体について――
その気体の分子の一つひとつは、容器の内部を目まぐるしく飛び交っているが――
それら数多の分子の集合としては、容器の内部に静謐にとどまっているとみなす。
それと同じである。
『随に――』