価値評価の疑似空間では――
個の“人の意志”の移ろいは――
人の世の大多数を占める凡人たちの意志の相加平均を原点とし――
その原点に対する運動として表される。
凡人たちの意志の相加平均は、統計力学の発想によれば、ほとんど移ろわぬとみなせるので――
個の“人の意志”の移ろいは、厳密には相対的であるが、実際には、ほぼ絶対的といえる。
とはいえ――
凡人たちの意志の相加平均が、全く移ろわぬわけではない。
その移ろいは、統計力学の発想によれば、たしかに個の“人の意志”の移ろいよりは鈍重であるはずだ。
が――
それでも――
確実に移ろってはいる。
この鈍重な移ろいを鋭敏に察しうる者が、
――英傑
である。
英傑たちは――
凡人たちの意志の相加平均が緩やかに移ろおうとする時――
その移ろいを鋭敏に察し――
それに乗じて――あるいは、それの先回りをして――
凡人たちの意志の相加平均を、あたかも自身の思惑で自在に移ろわせたかのように演出をすることで――
自身の指導性を醸し出す。
その醸し出し方の巧みな者が、
――英傑
として、歴史に名を残す。
凡人たちの意志の相加平均が緩やかに移ろおうとする時――
それに瞬時に気づけぬ者は――
決して英傑とはなりえぬ。
『随に――』