X (t) = ∫ q (x; t){− ln p (x, s; t) −(− ln q (x; t))}dx + Γ
で定義をされる X (t) の正体を考えていくと――
(似たようなことが19世紀の熱力学で論じられていなかったか)
ということに気づく。
ここで――
t は時刻であり――
q (x; t) は、身体の持ち主が、身体の外部における状態について、主観的に見積もる確率であり――
x は、身体の外部における状態を決める変数であり――
− ln p (x, s; t) は、身体の持ち主が、身体の外部における状態について、感覚器を通して察するエントロピー(entorpy)であり――
ln は、高校の数学で学ぶ自然対数であり――
s は、身体の感覚器が受け取る信号を決める変数であり――
Γ は定数である。
……
……
要するに――
X (t) は、身体にとっての“身体の外部における状態のエントロピー” S (t) から――
身体が、q (x; t) に関わる情報を身体の内部に留める結果、身体の内部における状態に発生をするエントロピー Q (t) を差し引いた量に――
定数 Γ を加えたもの――
である。
まとめれば、
X (t) = S (t) − Q (t) + Γ
である。
この等式は――
ある熱力学の量を定める等式に似ている。
その量とは、
――自由エネルギー(free energy)
だ。
……
……
――自由エネルギー
とは――
自然界のある部分において――
その状態を示す量の1つである。
F = U − TS
で定義をされる。
F が自由エネルギーであり――
U は、その状態の内部エネルギー(internal energy)であり――
T は、その状態の絶対温度であり――
S は、その状態におけるエントロピーである。
自由エネルギー F は、その状態で起こる化学反応などの反応の方向を示す。
自然界の反応は、常に F が減る方向に進む――そうなるように F を定めた。
一方――
内部エネルギーとは――
その状態が持っているエネルギーの総和である。
ただし――
エネルギーというのは、何を基準に採るかで値は変わってくるので――
例えば、この「内部エネルギー」についていえば、分子の結合に必要なエネルギーを勘定に入れるか否かで値は変わってくるので――
F = U − TS
の等式は、何を基準に採っても構わぬように、
F = U − TS + 定数
と記してもよい。
が――
その都度、定数の項を記し加えるのは煩雑であるから――
省くのが慣例となっている。
この慣例に従えば、
X (t) = S (t) − Q (t) + Γ
は、
X (t) = S (t) − Q (t)
である。
F = U − TS
と、
X (t) = S (t) − Q (t)
と――
よく似ている。
ちなみに――
熱力学で自由エネルギーを考える時は、絶対温度が一定との条件――等温条件――を設ける。
よって――
絶対温度 T 以外の量 F、U、S は、いずれも時刻 t の関数とみなせる。
つまり、
F = U − TS
は、
F (t) = U (t) − TS (t)
と記してもよい。
ますます、
X (t) = S (t) − Q (t)
に似てきた。
が――
むろん類似点だけではない。
相違点もある。
第一に――
次元が異なる。
F (t) = U (t) − TS (t)
はエネルギーの次元であるが、
X (t) = S (t) − Q (t)
はエントロピーの次元である。
エントロピーの次元に絶対温度の次元を乗じたものがエネルギーの次元である。
この他にも見逃せぬ点が――
S (t) の意味の違いだ。
どちらの等式にも状態のエントロピー S (t) が含まれているが――
それらの意味は同じではない。
F (t) = U (t) − TS (t)
の S (t) は、状態のエントロピーそれ自体であるが、
X (t) = S (t) − Q (t)
の S (t) は、身体の持ち主にとっての“身体の外部における状態のエントロピー”である。
前者は、19世紀ドイツの物理学者ルドルフ・クラウジウス(Rudolf Clausius)や、そのクラウジウスより 20 歳ほど若かった19世紀オーストリアの物理学者ルートヴィヒ・ボルツマン(Ludwig Boltzmann)らによって導入をされた量であり――
後者は、20世紀アメリカの電気工学者・数学者クロード・シャノン(Claude Shannon)によって導入をされた量である。
『随に――』