――なぜ小説を書くのか?
この問いを、僕は避けて通ることができないようである。
――なぜ書くのか?
物語を紡ぐためである。
では、
――なぜ物語を紡ぐのか?
そう訊かれてしまうと――
はたと思考が停止する。
気がついたら、物語を紡いでいた。
4歳か5歳のときだ。
現実とは違った妙な世界に、様々な登場人物が現れ、何やら蠢(うごめ)いていた。
なぜ彼ら彼女らが蠢いていたものか――
当時の僕も、今の僕も、ハッキリした理由を語ることはできない。
本当に、語ることはできない。
ときどき――
嘘をつくことがある。
――僕は人間が知りたくて物語を紡いでいる。
と――
人間を物語に描くことで、より深く人間について考えたいからだ、と――
実際は、逆である。
物語を紡ぎたいから、人間に興味をもった。
深い物語を紡ごうと思ったら――
人間に興味をもつのが最も確実らしい――
そう考えたのである。
なぜ物語を紡ぐのか――
その問いに答えがみつかる時は、どういうときであろう?
死ぬ時であろうか?
それとも、小説書きをやめる時であろうか?
いずれにせよ――
何かが決定的に変わるときであることは、間違いないようである。