サービス業で重要なことは、サービスを享受する側の満足感である。
が――
それと同じくらいに重要なのが――
サービスを提供する側の満足感だ。
サービスを提供する側が、何らかの疑問を感じていたり、過度な我慢を強いられたりしていては、良質なサービスは望めない。
サービスの質それ自体が良好でなければ、享受する側とて、満足できるわけがない。
が――
サービスを提供する側の満足度は、しばしば軽視される。
サービスを享受する側の満足度ばかりが、重視されるのである。
これは、部屋を暖めようと全ての窓を締め切っているのに、暖房のスイッチを入れないようなものである。
*
一般に、サービス業では、仕事の本質が理解されやすい。
たいていのサービス業の実態は、初心者でも容易に想像できる。
例えば、販売や医療や教育の実態が想像されがたいということは、ほぼありえない。
が――
農林水産業や製造業となると、本質は理解されにくい。
たしかに、それらの目的は、農作物や製品の生産であったりするわけだが――
その生産の実態というのは、意外に想像されえないものだ。
水田や工場などで、実際に、どのような作業が行なわれているかは、部外者にとっては、想像の域を越えている。
それゆえに――
農林水産業や製造業では、玄人魂が熟成されやすい。
ただ黙々と働き続けるだけでも、従事者の眼力は相応に養われる。
サービス業では、そうはいかない。
なまじ仕事の本質が理解されやすいので、玄人魂は熟成されにくい。
ただ黙々と働き続けるだけでは、従事者の眼力は、いつまでたっても養われない。
だから――
サービス業に携わる者は、常に自分の頭で考え続ける習慣を身に付ける必要がある。
そうでなければ――
いつまでたっても、子供レベルの仕事で終わってしまう。
子供レベルの仕事がもたらす満足感は、所詮、子供レベルの満足感である。
そんなものが通用するはずはない。
サービスを提供する側は、自分の満足感の向上を貪欲に狙うほうがよい。
それが、サービスを享受する側の満足感にもつながっていく。