――背徳
という概念が――
僕には、どうしようもなく面白い概念に感じられます。
かのマルキ・ド・サドの著作に『悪徳の栄え』というものがありますが――
「悪徳」よりは「背徳」のほうが、僕は惹かれますね。
断然、面白そう――
「背徳」というのは「徳に背くこと」です。
この場合の「徳」とは、「善徳」あるいは「美徳」のことでしょう。
つまり――
背徳という概念の面白い点は、悪徳とは直接的には無関係であって、むしろ、善徳や美徳と関係がある――
ということです。
ということは――
背徳をしようと思ったら、善徳や美徳がわかっていないと、無理なのですよ。
背徳は善徳や美徳に背を向けることですから――
どこに善徳や美徳があるのかをわかっていないと、それに背を向けることなどは、できませんからね。
ですから――
ときどき、女流作家さんで、
――まあ、なんて、ハレンチな!
と罵声を浴びそうな背徳的随筆を書かれる方がいますが――
そういう方に限って、語り口や文体には、何ともいえぬ品の良さがあるのですよね。
たぶん、善徳や美徳を心身の芯から会得されているからこそ――
そういう随筆が自在に書けるのだと思っております。