アップル社のスティーブ・ジョブズさんの言葉が、注目を集めているようです。
先週、突然の訃報が世界を駆け巡ったことに端を発しているようです。
その言葉とは、
――Stay hungry. Stay foolish.
ジョブズさんが、2005年にアメリカのスタンフォード大学の卒業式に招かれ、祝辞を述べられたときのものです。
ご自身の言葉ではありません。
若い頃に愛読されていた『全地球カタログ』という出版物――おそらくは雑誌の類い――の最終号の背表紙に――おそらくはアメリカのどこかの田舎道の写真とともに掲載されていた言葉だそうで――
以後、ジョブズさんが、ずっと大切にしてこられた言葉だそうです。
日本語に訳せば、
――餓えたままでいろ。バカなままでいろ。
となりましょうか。
もちろん――
この場合の「hungry」は、文字通りの「餓え」ではなく、「愛情に餓えている」などの「餓え」です。
また、後続の「foolish」の語感も加味するならば――
日本語訳としては、
――狂い求め続けろ。バカであり続けろ。
が適切なように思います。
ジョブズさんはアップル社の製品などを通し、世界の人々の生活を変えました。
その意味では、優れた発明家です。
また、ご自身の発明品には、ご自分の技術観や美術観、人生観、社会観などが色濃く反映されていました。
その意味では、優れた思想家です。
その一方――
経営者としての腕力も特筆に値します。
最高経営責任者として、アップル社を世界最大規模に押し上げました。
その陰には、独善的ともとれる経営の合理化が潜んでいたといわれます。
経営を維持・拡大するのに本質的な努力はするが、ジョブズさん以外にとってはどうでもよい努力もする――
信奉者は多いが、離反者も多い――
そうしたジョブズさんの経営・統治方針は、「Stay hungry. Stay foolish」と合致します。
一般に、狂い求め続ける人やバカであり続ける人には、いざこざが耐えないものです。
ですから――
この「Stay hungry. Stay foolish」の言葉は、劇薬だと感じます。
たしかに、大学を卒業するくらいに若い人たちにとっては、良薬かもしれません。
が――
社会に出て、相応の地位につき、責任を負っている人たちにとっては、劇毒でしょう。
何のために劇薬を服用するのか――
そこが問題です。
目的もなく、単に狂い求め続けたりバカであり続けたりしたら、周囲の人たちを不幸にします。
ジョブズさんは、ご自身の発明家や思想家としての活動を継続するために、狂い求め続け、バカであり続けたことを、僕らは決して見落としてはいけません。
その活動が、世界中に幸福をもたらしうると多くの人々に感じさせたからこそ、「Stay hungry. Stay foolish」は輝いたのです。
ジョブズさんの式辞の全文を読むと――
ジョブズさんの真意は「Stay hungry. Stay foolish」の字面にはありません。
何のための「hungry」や「foolish」なのか――
それは、
――自分の心の動きに誠実であるため
です。
もし――
ジョブズさんの真意を強いて字面にするならば、
――Stay active. Stay honest.
です。
つまり、
――活発であり続けろ。正直であり続けろ。
です。
やりたいことをやりとげるために、人は、活発に狂い求め続け、正直にバカであり続けることが許される――
やりたいことがないままに、単に狂い求め続け、バカであり続けることは、周囲で軋轢を起こすための言い訳にすぎません。
ジョブズさんのやりたかったこと――
それが発明家や思想家としての活動であることは、自明です。
その活動が世界中の人たちに幸福をもたらすかどうかは、後世の歴史家が判断するところです。
が――
その可能生をおおいに感じさせているという点は、誰にも否定しがたいところです。