マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

「違う! 私はスコットランド人だ!」

 ――イギリス人でいらっしゃいますよね?
 
 と訊くつもりで、うっかり、
 
 ――You are English, is that right? (イングランド人でいらっしゃいますよね?)
 
 と訊くと、たまに、
 
 ――No! I'm Scottish! (違う! 私はスコットランド人だ!)
 
 と凄まれることがあるそうです。
 
 僕ら日本人の感覚からすると、いまひとつピンときませんが――
 スコットランドの人たちの中には、「イギリス」と「イングランド」との違いを理解していない外国人に対し、どうしても冷静ではいられなくなる人があるといいます。
 
     *
 
 スコットランドの独立を問う住民投票が行われ、独立反対派が独立賛成派を制しました。
 きのう各種報道機関が一斉に伝えた通りです。
 
 何とも複雑な感想を持ちました。
 
 独立を拒んだ人々の気持ちはわかりますし――
 独立を願った人々の気持ちもわかります。
 
 正直なところをいえば、部外者に過ぎない僕にとっては――
 スコットランドの独立が回避されず、過激な独立機運が世界各所に飛び火し、世界中で騒乱が巻き起こる恐れがなくなって――
 かなりホッとしている一面はあるのですが――
 
 前述の「You are English, is that right? (イングランド人でいらっしゃいますよね?)」と訊かれて――
 つい「No! I'm Scottish! (違う! 私はスコットランド人だ!)」と凄んでしまう人の気持ちも、よくわかる気がします。
 
 本来、「イギリス人でいらっしゃいますよね?」と訊きたいのなら、
 
 ――You are Britsh, is that right?
 
 と訊かなければいけないのですね。
 
 日本語の「イギリス人」に最も近い英語は、「English people」ではなく、「British people」であろうと思います――「British people」は「ブリテン島の人々」くらいの意味でしょうか。
 
 よく知られているように――
 イギリスの正式な国名は、
 
 
 でして――
 この「連合王国」は、イングランドスコットランドウェールズ北アイルランド」の4つの国(country)が合わさったものです。
 
 人口の大半を占めるのはイングランドであり、イギリスの富や権力はイングランドに集中しています。
 そのことが、他の3つの国の人たちには、時に許せなくなることがあるらしく――とりわけスコットランドの人たちは、そうなることが多いらしいのです。
 
 それは、歴史的な経緯によります。
 
 西暦1707年に、いわゆる連合法(Acts of Union)が成立し、今のイギリスの源流にあたるグレートブリテン王国が誕生したときに――
 スコットランドイングランドと(少なくとも形式上は)対等な合併を果たしたのでした。
 
 その経緯をよくわかっているスコットランド人にとって、「イギリス」と「イングランド」とを混同する外国人が何となく許せないのは、自然な成り行きでしょう。
 
 もちろん――
 しばしば「イギリス」の意味で「イングランド」という国名が使われる現状を、多くのスコットランド人は受け入れているようなのですが――
 
 それでも――
 その現状を面と向かって突きつけられると、なかなかそれを受け入れられない――その現状を、そう簡単には認めたくない――
 
 そんなスコットランドの人々の心情が――
 今回の独立投票の背景には、あるようなのですね。