自分のありったけの思いを込め――
人の心を激しく揺さぶるような文章を書くのが――
簡単でないように――
自分の思いを適度に薄め――
誰の心にも波風が立たないような文章を書くのも、また――
そんなに簡単ではありません。
どちらにも相応の文章技術が必要なのです。
ありったけの思いを文章に込める技術があるからこそ――
思いを適度に薄めた文章に仕上げることができるのです。
思いを込めることばかりに拘って文章を書いていると――
そのうちに思いを文章に巧く込めることができなくなり――
思いを過度に薄めた文章ばかりを書いていると――
そのうちに思いを巧く薄めることができなくなります。
喩えていうならば――
毎日、熱烈なラブレターばかりを書いていたら――
そのうちに、熱烈なラブレターが書けなくなり――
毎日、社交辞令の手紙ばかりを書いていたら――
そのうちに、社交辞令の手紙が書けなくなります。
熱烈なラブレターを書こうと思ったら――
ときには、社交辞令の手紙を書かなければならないし――
社交辞令の手紙を書こうと思ったら――
ときには、熱烈なラブレターを書かなければならないのです。