人の気持ちのリアルなところを全て表しきってしまうと――
かえって興を削ぐということが、あるようです。
作詞家が、
――やった! 今回は人の気持ちが巧く描けた。大ヒットするに違いない!
と満を持して世に問うた作品が、思ったようにヒットしない――
そういうことが――
珍しくないといいます。
たぶん――
巧く描けたぶん、人の気持ちのリアルなところが存分に表されてしまって――
それが――
歌を聴く人の興をかえって削いでしまうのです。
よく考えてみたら――
人の気持ちを惹きつける詞が――
人の気持ちをリアルに描き込んだ詞である必要は――
まったくないのですよね。
むしろ――
人の気持ちのリアルなところを綺麗に隠している詞のほうが――
人の気持ちを強く惹きつけるように思います。
――リアルなところ
というのは――
たいていは、
――醜いところ
でもあるので――
……
……
詞は――
そんなにリアルである必要がないのです。
むしろ――
リアルな詞はダメです。
きのうの『道草日記』で、
――失恋の歌には矛盾がある。
と述べましたが――
その主張は――
リアルな詞がダメな理由と密接にかかわっています。