マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

『アキレスと亀』の面白み

 いわゆる言葉遊びには、

 ――言葉の音や響きを工夫して用いて楽しむ遊び

 というものと、

 ――不合理や矛盾のある意味を作って楽しむ遊び

 というものとの2つがある――
 ということを――

 きのうの『道草日記』で述べました。

 そして――

 音や響きの工夫で楽しむ遊びの典型として、

 ――押韻

 や、

 ――洒落

 があり――
 不合理や矛盾で楽しむ遊びの典型として、

 ――詭弁

 や、

 ――戯言

 があるとも――
 述べました。

 ……

 ……

 いわゆる「詭弁」の好例として――
 僕が真っ先に思い浮かべるのは、


 です。

 古代ギリシャの哲学者ゼノン(エレアのゼノン)が――
 世に広く問うた逆説として知られています。

 曰く、

 ――いかにアキレスが駿足であっても、先行した亀に追いつくことはできない。アキレスが亀を追いかけると、その間に、亀は僅かながら先行する。さらにアキレスが亀を追いかけると、その間にも、亀は僅かながら先行する。こうして、アキレスはいつまで経っても亀に追いつけない。

 という主張です。

 今日では――
 この逆説は、数学でいうところの等比数列や無限級数に帰着させることで矛盾なく説明をすることができます。

 よって――
 数学が十分には発達していなかったゼノンの時代は、ともかく――
 現代の日本のように、等比数列や無限級数が高校数学の課程に組み込まれているような社会では、逆説とはみなされがたく、

 ――詭弁

 ないしは、

 ――純粋な誤謬

 とみなされることが多いようです。

 僕自身――
 この『アキレスと亀』のことを把握したのは高校を卒業する頃で――
 幸いにも等比数列や無限級数を一応は理解しておりましたので、
 (この話の何が逆説なのか)
 と疑問に思った記憶があります。

 はっきりいえば、
 (くだらない)
 と思っていたのですが――

 ……

 ……

 印象が変わったのは――
 高校を卒業して20年くらい経った頃でした。

 (この話は、言葉遊びとして捉えなおすと、大変に面白い)
 と思い直したのですね。

 どういうことか――

 ……

 ……

 『アキレスと亀』の「アキレス」は、ギリシャ神話に登場するキャラクターです。

 無双の力を誇った無敵の英雄でしたが――
 闘いの最中、唯一の弱点である踵(かかと)を射られて、命を落としたされます。

 ――アキレス腱

 の「アキレス」の語源となったといわれます。

 そんなアキレスが亀と走り比べをするというのですから――

 『アキレスと亀』は――
 文芸的にユニークな面白みを感じさせるのです。

 ――押韻や洒落などの文芸的修辞に比肩しうる面白さ

 といってよいでしょう。

 ……

 ……

 恥ずかしながら――

 浅学の身であるがゆえに――
 ゼウス自身が「アキレス」や「亀」を用いて主張したかどうかは――
 よく知らないのですが――

 もし、古代以降、『アキレスと亀』の論点が、「アキレス」も「亀」も用いられずに主張されていたとしたら――

(ほとんど誰にも顧みられなかったかもしれない)
 とさえ――
 僕は思います。