マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

『アキレスと亀』が逆説に思える理由


 の逆説は――
 いわゆる高校数学の等比数列や無限級数に帰着させることで解消できる――
 というようなことを――

 きのうの『道草日記』で述べました。

 厳密には、

 ――解消できる

 ではなく、

 ――少なくとも日常の感覚では、解消できるように思える

 なのですが――

 いずれにせよ――

 その論証の概略を――
 以下にお示しします。

 ……

 ……

 いま――
 時刻0において――
 アキレスは地点0、亀は地点1にいるとします。

 地点1は地点0の前方――アキレスにとっても亀にとっても前方――にあって――
 2地点間の距離は L であるとします。

 また――
 アキレスの足の速さを V、亀の足の速さを v とします。

 アキレスは駿足、亀は鈍足とみなしますので、

  V > v

 とみなせます。

 よって、

  v = rV

 とすると、

  0 < r < 1

 です。

 時刻0において――
 地点0のアキレスが地点1の亀を追いかけ始めます。

 アキレスが地点1に着くとき――
 亀は地点1の前方にある地点2に着きます。

 このときの時刻1は、

  L / V

 です。

 地点1から地点2までの距離は――
 亀が時刻0から時刻1までに走る距離に等しいので、

  v(L / V)
  = rV(L / V)
  = rL

 です。

 当然ながら――
 アキレスと亀との走り比べは、時刻1では終わりません。

 時刻1において――
 地点1のアキレスが地点2の亀を追いかけ続けます。

 アキレスが地点2に着くとき――
 亀は地点2の前方にある地点3に着きます。

 このときの時刻2は、

  時刻1+rL / V
  = L / V +rL / V
  = L (1+r)/ V

 です。

 地点2から地点3までの距離は――
 亀が時刻1から時刻2までに走る距離に等しいので、

  v(rL / V)
  = rV(rL / V)
  = (r^2)L

 です。

 ただし――
 いま「r の m 乗」を「r^m」で表しています。

 以下――
 同様にして――
 地点4、地点5、……、地点 n、地点 n+1 を想定でき――

 かつ――
 時刻3、時刻4、時刻5、……、時刻 n を想定できます。

 つまり――
 時刻3は、

  L(1+r+r^2)/ V

 であり――
 時刻4は、

  L(1+r+r^2+r^3)/ V

 であり――
 時刻5は、

  L(1+r+r^2+r^3+r^4)/ V

 であり――

   ・
   ・
   ・

 時刻 n は、

  L{1+r+r^2+r^3+r^4+……+r^(n-1)}/ V

 であるとわかります。

 さて――
 時刻 n の分数のおける分子の一部、

  1+r+r^2+r^3+r^4+……+r^(n-1)

 は、初項1、公比 r の等比数列の和(級数)であり――
 その和は、

  {1-r^n}/(1-r)

 と計算できます。

 n を無限大とみなすとき、

  1+r+r^2+r^3+r^4+……+r^(n-1)

 は、無限級数とみなせますから、

  0 < r < 1

 より、

  r^n
  → 0

 を得るので、

  {1-r^n}/(1-r)
  → 1/(1-r)

 を得ます。

 よって――
 n を無限大とみなすとき――
 時刻 n すなわち、

  L{1+r+r^2+r^3+r^4+……+r^(n-1)}/ V

 は、

  L /{(1-r)V}
  = L /(V-rV)
  = L /(V-v)

 とみなせます。

 この時刻は――
 速さ V のアキレスが 速さ v の亀に追いつくことを前提とする場合に――
 アキレスが亀に追いつく時刻に等しい――
 とみなせます。

 よって――
 アキレスは、n が無限大である場合の 時刻 n において――
 亀に追いつくといえます。

 いいかえると――
 n が有限である場合には――
 アキレスは決して亀に追いつけない――
 といえます。

 つまり――
 『アキレスと亀』は――
 本来は、無限大の概念を導入する必要がある思考であるにも関わらず――
 無限大の概念を十分には導入せず――たんに表層的に導入するのみで――むしろ、有限の概念のほうをより強く意識させる思考であるがゆえに――
 一見、逆説のように思えるのです。